社会包摂部「楽しくつながるプロジェクト」2021活動報告

小公演『奥多摩しいたけ物語』

2021年11月3日。
快晴の空の下、奥多摩市の山あいにある知的障がい者施設東京多摩学園の屋上テラスで、
利用者さん全員(44名)と職員さんたちが演じる 野外劇「奥多摩しいたけ物語」が上演された。

当日はおよそ100名が訪れ、約30分の公演と上演後のトークショーを楽しんでくださった。
2年越しの企画がようやく実を結んだ。
その軌跡を辿ってみる。

前年、コロナの影響で訪問が出来なくなり
暗中模索の中、オンラインでのワークショップを行った。

講師たちは叫ぶやら踊るやら写真や絵を使っての説明やらてんやわんやだったが
受講している利用者さんたちは、大きな画面に映る自分の姿が珍しいのと
まるでテレビの向こうの講師と会話するみたいなのが、面白かったらしい。
最終的にはオンラインで芝居の上演までやってしまった。

この時の体験が今年に繋がっている。
自分が楽しいことは相手も楽しい。
共に味わった思いは、互いの記憶に残り、次へのエネルギーとなる。

2年目はいよいよ対面での劇作り。
「前回見守るだけだった中度〜重度の利用者さんたちもやりたそうにしている。
一緒に出来ないだろうか?」と、山下園長からご提案をいただいた。

目標は〈全員が舞台に立つ〉。

園長ご自身も、そして職員さんも出演者として参加し
みんながリラックスして演劇を楽しめる公演にしたい。

題材は、東京多摩学園で日頃作業しているしいたけ栽培を基に
「奥多摩しいたけ物語」として上演することに決定。

日常行っている動きなら重度の利用者さんも舞台上で歩けるし
栽培の手順も慣れているからやり易い。

5月半ばに多摩学園の皆さんにしいたけが出来るまでの過程を教わって台本にかかり
春から次の年の秋の収穫までを短い場面ごとに構成した。

実際の作業をリアルに再現すると同時に、
菌を植え込んでもらう「原木」や、しいたけを食べたい奥多摩の「猿」
「雨」や「花の精」役などを人間に演じてもらいファンタジーを混ぜ込んでいく。

稽古は8月後半、3日間のワークショップからスタートした。
午前中2時間、昼食休憩を挟んで午後は1時間半。

まずは遊んで楽しむ。
一年目に見学だった利用者さんの体力、個性を知ることが講師側の目的でもあり
遊んだ内容の中にはそのまま劇のシーンで使う要素も含まれている。

驚いたのは、前年楽しく終わったあの瞬間をそれぞれが克明に覚えていて
今年の劇作りを始めていることだった。
そして稽古が終わるまで誰もその場を離れようとしない。
ちなみにこの状態はなんと本番終わりまでずっとそうだった。

自閉症がある方だと、ある程度時間が過ぎると勝手に出て行ってしまうこともあると伺っていたのだが、
たとえ自分の出番がなくても、仲間の練習を見つめて全員が「そこにいた」のだ。
全員参加の目標は本番だけにあったのではなく
そもそも稽古中に達成されていたのだと後に思い至る。
全部で18回の稽古は本番の舞台となる屋上テラスで行い、習慣化出来るようにした。

体を動かすのが得意なK君の美しいラジオ体操がみんなの準備運動。
ナレーター役のT君は言葉をたくさん知っていて
随所でアドリブを使い出演者の面白さを引き出してくれる。
シャボン玉を吹かせたらピカイチのMさん
それぞれの生き様が個性的な表現になって舞台に溢れ出す。

いつしかテラスの向こうの山々が緑から紅葉に変わり、本番がやってきた。
100人のお客様を迎えて幕を開けた「奥多摩しいたけ物語」は
幕開きから拍手に包まれ暖かい笑いが会場を揺らしていた。
障がいがあってもなくても共に演劇で楽しくつながるプロジェクト2年目は
奥多摩の自然の中で成長し無事に終演を迎えることが出来た。
見えない何かが繋がり合いそこにいることに感謝せずにいられない瞬間を
人は幸せというのかもしれない。

他方、社会包摂の領域は広く深く種々様々な課題があることも見えてきた2年間だった。
これからも演劇で何が出来るかを真摯に模索しながら
創造活動を続けていかなければならないと思う。

社会包摂部
「楽しくつながるプロジェクト」実行委員

野﨑美子

「奥多摩しいたけ物語」は配信映像を御観劇いただけます。ご希望の方は下記よりお申込みください。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfkftzeaw9OESSaBHDY6AK3vBWHBf0bKZeWP70pextTX9zHOg/viewform


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