国際年鑑 ダイジェスト版  —— 2019 ———    フランス特集・イギリス特集・(付録)カナダ特集1999

国際演劇交流セミナー 2019年鑑

>>フランス特集へジャンプ
>>イギリス特集へジャンプ
>><付録>カナダ特集1999へジャンプ

📘 所蔵図書館


「分断が進む世界の中で、国際部でできることは? 」国際部長 佐川大輔

(2020 年 2 月の時点でこの原稿を書いています。今世界では新型コロナウイルスによる不安が蔓延し、「人の移動の規制」が起きています。このウイルスはひょっとすると、世界の分断を促進し、地球上の人間を淘汰していくために、生み出されたのでは ないかと思ったりしています)
                                      
 20年ほど前から始まったグローバル化の波。国の垣根を超えることで課題を克服していくという理念だったはずなのですが、20年を経た今、むしろ世界の分断化はより深刻になっているのではないでしょうか? イギリスのEU離脱、自国第一主義の米中、欧州における移民問題、中東との軋轢、冷えこむ日韓関係など、事例に事欠きません。グローバル化は様々なテクノロジーを進化させ、世界中と交流をしやすくしましたが、その副作用として、文化や言語の違いも明確になり、より障害が明確化され ているのかもしれません。
 そんな2019年度、国際演劇交流セミナーは「フランス特集」と「イギリス特集」を開催しました。フランスはナディーン・ジョージさんとロラン・クルタンさんを迎え「声」をテーマに、そして、イギリスはベアトリス・アレグランティさんと助手の松本武士 さんを迎え「ダンスセラピー」をテーマに行いました。この 2つに共通するキーワードは「身体」です。文化的な背景、言語、生活習慣、宗教などの違いから起因する世界的な分断。この壁を超えていく1つの希望として、身体があるのではないでしょうか?論理や認知という認識レベルを超え、人間が本来持っている、より直感的、感 覚的なものを見直す時代が来ているのだと思います。
 舞台芸術の基本は、「そこに人がいること」です。今回の年鑑記録は、1人ひとりの身体、そして、人間本来が持っている感受力という可能性に、フォーカスした内容になっており、そういう観点で記録を読むのも面白いかもしれません。



#a

フランス特集

アルフレッド・ヴォルフソーン(Alfred Wolfsohn 1896-1962)
1896年ベルリン生まれのドイツ人歌唱指導者、心理療法研究者。第一次世界大 戦中の兵士としての過酷な体験によるトラウマが起因で声の研究を始める。塹 壕で、負傷した瀕死状態の兵士を運ぶ担架の担ぎ手であった彼は、兵士の悲鳴 と叫びの幻聴に苦しみ、発声された極端な音声と、それがもたらすカタルシス(浄化作用)と悪い記憶の払拭(exorcism)との結合を研究。声における精 神的な因子と肉体との関連について研究する。それは声の源は専ら発声器官、 喉頭にあるとする学問的立場と対立するものであった。さらにユング心理学上 のアニマ、アニムス(抑圧された無意識に存在する男性性、女性性)の芸術へ の応用を考える。研究は教育、セラピー、芸術、宗教、愛の領域へと拡がる。 彼の開拓者としての研究は声が芸術表現のための道具のみならず、人間性の発 展、治療効果への可能性を持つことを明らかにする。「声は魂(心)の筋肉で ある」と彼は言う。

 2017 年にロラン・クルタン氏をお迎えして実施された同事業「フランス特集」は、声と身体との繋がりを探りながら発見し、体験し、目撃するまさに開拓であったと思います。その後クルタン氏は日本の演劇人たちとのワークの体験を、ヴォイススタジオ インターナショナルに持ち帰り、創立者ナディーン・ジョージ女史に報告し、語り合ったそうです。
 翌年、パリのクルタン氏の自宅で、初めて私はナディーン・ジョージ女史とお会いしました。温かい、深みのある眼差しが印象的な方でした。彼女が 30年間にわたり、スコットランド、スウェーデン、アイスランド、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、フランス、イギリスといった欧州の国々で続けてこられた「声」の探求とその結実である独自のメソッドが、「日本」と出会ったらどうなるだろうか、という強い関心と興味をお持ちでした。
今回、参加者には演出家のみならず、教育者、指導者でもある方々が集まって下さいました。
 「聞いたことのない自分の声を聞いた」体験、社会や周りから支配されない、本当の、本来の自分が持つ声を発見する、発展させるその現場は、今回も感動の連続でした。
「声」と「身体」との繋がりのワークではあるわけですが、それは何かそれ以上の、人生や魂の領域に入っていく道程のようでもあり、演劇がそのような人間性の本質に関わる芸術であるという証を毎日目の当たりにしました。
 日本でのワークショップが終わって 1 カ月後、ナディーンから長いメールが届きました。日本という、独自の歴史と文化と魂を受け継ぐ人々との出会いは、自分の研究にとっても大きな経験だった、日本語になったシェイクスピアのテクストを初めて使ったが、その言語に関わらないメソッドには、有機的な普遍性があることを改めて確認することができた、というものでした。
最後に、参加者の中から数名が、このワークショップの半年後に、ロンドンで開催されるナディーンのワークショップに向かったという嬉しい知らせがあったことも、付け加えておきたいと思います。

企画担当 山上 優

「 声 ― 震動する身体との繋がり(コネクション)

  − ワークショップ / プレゼンテーション・シンポジウム −

自分の身体から出発して、自分の声を探していくワークショップを開催。
「呼吸」に目を向け、身体のリラクゼーションから声を温めていき、徐々に声を出すエクササイズへ。そして、個々の身体に特有の声を探求しながら、テクストワー クへと丁寧に進めていった。
テクストには、シェイクスピア『リチャード 3 世』 からの抜粋を使用。 
最終日には、参加者による『リチャード 3 世』モノローグ部分のプレゼンテー ション。
そして、シンポジウム「続 声・共鳴する身体から台詞へ」を開催した。

【in 東京】
会場:深川リトルトーキョー3階

ワークショップ
5 月 20 日(月)11:00 ~ 17:00
5 月 21 日(火)11:00 ~ 17:00
5 月 22 日(水)11:00 ~ 17:00
5 月 23 日(木)11:00 ~ 17:00
5 月 24 日(金)11:00 ~ 15:00

プレゼンテーション・シンポジウム
5 月 24 日(金)16:00 ~ 19:00

参加者によるプレゼンテーション
シンポジウム「続 声・共鳴する身体から台詞へ」
〔パネリスト〕
 ナディーン・ジョージ
 ロラン・クルタン
〔ゲスト 〕
 和田喜夫

講 師
ナディーン・ジョージ /Nadine GEORGE

ヴォイススタジオインターナショナル創設者。ロンドンのCentral School of Speech and Dramaで声のスペシャリストとして世界的に著名なシスリー・ベリー(※)に学び、その後スコットランド王立芸術学校で 20 年間教鞭をとり発声法学科の正式認証を受ける。スウェーデンを始めとする北欧諸国およびイギリス、フランスでの 30 年に渡る教育とヒューマンヴォイス研究の芸術への貢献に対し、コンセルバトワール・グラスゴーより名誉博士号を授与される。
近年はパリの ARTA、ストックホルムの Teater Alliansen でプロの俳優のための、またス トックホルム国立演劇学校で講師のためのワークショップも行う。アルフレッド・ヴォル フソーンの研究にも影響を受け、その方法論を継承。1975 年、南フランスのロイ・ハート・ シアター・マレラルグの設立にも寄与する。
※ シスリー・ベリー(Cicely Berry 1926-2018)世界的に著名な指導者。
RSC(ロイヤルシェイクスピアカンパニー)のヴォイスディレクターでもあった。

講 師
ロラン・クルタン /Laurent COURTIN

1969 年フランス、シャルトル生まれ。演出家、指導者。パリ第二大学(パンテオン=アサス)卒。論文< Èchos intérieurs エコー アンテリユール>(内なる響き)では声の訓練法をテーマに取り上げる。カンパニー<ボール・ドゥ・セーヌ>主宰。イリーナ・ブルック演出「ピーターパン」「テンペスト」で演出助手をつとめる。ナディーン・ジョージ設立のボイススタジオ・インタ ーナショナル公認講師、パリ支局長。
フランス特集 2017「声 – 共鳴する身体を演出する」の講師。
ナディーンと共にロンドン、エジンバラ等でも定期的にワークショップを行っている。

>>> ワークショップ(一部抜粋)
>>> プレゼンテーション・シンポジウム(一部抜粋)

>>> 呼吸のエクササイズ(イラストで解説)
>>> ヴォイススタジオインターナショナルによる4つの声の音質

 「ヴォイススタジオ インターナショナルによる4つの声の音質」
1. 母音AW「オ」で、腹部に響かせる《低い男声》 (Deep Male Voice)
2. 母音AH「ア」で、胸部に響かせる《高い男声》 (High Male Voice)
3. 母音OO「ウ」で、胸部に響かせる《低い女声》 (Deep Female Voice)
4. 母音AH「ア」で、腹部と繋がり頭部に響かせる《高い女声》 (High Female Voice)

<フランス特集>
通訳 石川麻衣
担当 山上優/柏木俊彦/遊貴まひろ


イギリス特集

社会包摂が叫ばれる今、藝術家ができることは何なのか?
イギリスの事例を通し、藝術と社会包摂の実践を考える5日間

「 身体のドラマから舞台芸術創作へ 」

  − レクチャー・ワークショップ / 基調講演・シンポジウム −

平成 30 年 6 月に障がい者による文化芸術活動の推進に関する法律が施行され、舞台芸術においてもこれまで以上に社会包摂的な視点が求められるようになっている。国内においても高齢者や障がい者による演劇活動が増える中、ベアトリス・アレグランティ(Beatrice Allegranti)のカンパニーによる、認知症の人々との舞台芸術協働創作プロジェクトを通して、そのプロセスや実践を紹介する ワークショップとなった。
最終日には、参加者による創作発表、そして、基調 講演 & シンポジウムを行った。

【in 東京】
会場:東京芸術劇場 5 階 シンフォニースペース

レクチャー/ワークショップ
7 月 24 日(水)18:00 ~ 21:00
 レクチャー①ダンスセラピーについて
7 月 25 日(木)18:00 ~ 21:00
 ワークショップ①ダンスセラピーを活用したワークショップの実践
7 月 26 日(金)18:00 ~ 21:00
 レクチャー②社会包摂的舞台芸術創作について
7 月 27 日(土)13:00 ~ 16:00
 ワークショップ②身体がつむぎだす物語に出会う Part 1
        17:00 ~ 20:00
 ワークショップ③ 身体がつむぎだす物語に出会う Part 2
7 月 28 日(日)13:00 ~ 16:00
 ワークショップ④ 身体がつむぎだす物語に出会う Part 3
(創作発表、振り返り)

基調講演 & シンポジウム
7 月 28 日(日)17:00 ~ 19:30
「イギリスと日本の事例を通し、社会包摂における芸術の可能性を考える」
〔パネラー〕
ベアトリス・アレグランティ/松本武士
〔ゲスト 〕
アオキ裕キ(ダンサー・振付家)
〔司 会 〕
岸本匡史(公益財団法人としま未来文化財団 事業企画担当マネージャー)

講 師
ベアトリス・アレグランティ /Beatrice Allegranti

ベアトリス・アレグランティはダンスムーブメント心理療法に精通した、振付家、心理療法士、フェミニスト作家、研究者そして教育者である。ベアトリスの芸術的焦点は、ポストモダンダンスのパイオニア達との舞台経験から生まれた “ボディ・ポリティクス” にある。“ボディ・ポリティクス” とは、ジェンダー、人種、階級、世代、セクシュアリティ、障がい、そして精神衛生を自叙伝的、そして社会政治的な構築物としてみるところの交差点のことである。ローハンプトン大学の教授をつとめる傍ら、RADA、London school of speech and drama、ラバンセンター、そして海外の大学で演者、俳優、ダンサーそして心理療法 士たちにワークショップを行っている。http://www.beatriceallegranti.com/

>>> ワークショップ(一部抜粋)

<イギリス特集>
アシスタント兼通訳 松本武士(Beatrice Allegranti Dance Theatre ダンサー)
担当 佐川大輔/島村和秀/広田豹


<付録>

カナダ特集1999

植民地政策によって人権を失ったカナダ先住民 トムソン・ハイウェイによる
先住民のための演劇の講義

【in 東京】
会場:明治学院大学 白金キャンパス 本館1405教室

1999年5月26日(水) 13:00 〜 17:00

講 師
トムソン・ハイウェイ/Tomson Highway

Credit :Nigel Dickson (TORONT LIFE)

 カナダ先住民クリー族出身の劇作 家・音楽家・小説家・児童文学作 家。1951年生まれ。マニトバ州北部のインディアン居留地に生まれ、6歳 の時、白人同化政策のためのロ-マ カトリックの寄宿学校に入れられ親元から離される。後に白人家庭に里子に出される。早くからクラシック・ピアノに興味を持ち、ウェスタ ン・オンタリオ大学で音楽と英文学の学士号を取得し、コンサート・ピアニストとしてのキャリアを積んでいく。しかし、都会に暮す先住民の 悲惨さを目の当たりにし、ソロピアニストの道を捨て、先住民の社会事業関係で働く。大学では音楽を専攻するが卒業後カナダ先住民支援グループに参加。その間、先住民作家と係わり創作を始める。
 先住民の居留地を舞台にした2つの戯曲『The Rez Sisters(居留地姉妹)』(1986年)、『Dry Lips Oughta Move To Kapuskasing(ドライリップスなんてカプ スケイシングに追っ払っちまえ)』(1989年)を発表。両作品ともカナダの代表的戯曲賞ドーラ・メイヴァー・ムーア賞を受賞。『The Kiss of the Fur Queen(毛皮の女王のキス)』(1998年)で小説家としてもデヴュー。’94年、カナダの最高勲章「Order Of Canada」を叙勲。トムソン・ハイウェイが描く世界は、現在の先住民社 会の内部世界であり、同時に近代、現代の歴史の検証、将来への希望である。

※『ドライリップスなんてカプスケイシングに追っ払っちまえ』は2001年に而立書 房から出版されています。
※クリー族 五大湖周辺からカナダ北部にかけて生活している北米最大の先住民。“北方の森の狩人たち”と呼ばれ、かつては鹿やビーバーを追ってたえず森の中を移動する狩猟民族だった。

>>> ワークショップ(一部抜粋)

基調講演:カナダ演劇の動向 
講師:佐藤アヤ子
戯曲リーディングとレクチャー「カナダ先住民の文化と現代演劇」
講師:トムソン・ハイウェイ(Tomson Highway)
通訳・脚本翻訳:森百合子


文化庁委託事業 「 2019 年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業 」

一覧に戻る