日本の戯曲研修セミナーin東京2021 ~田中澄江『鳥には翼がない』~オンライン版 報告

「田中千禾夫&田中澄江を読む!」 ~田中澄江『鳥には翼がない』~

田中澄江は、田中千禾夫の妻である。千禾夫ともども夫婦で劇作家だったのだが、演劇人としてどんな協働作業をしていたのか興味深いところだ。また、今回のセミナーはZoomで行われたので、様々な地域からの参加者が集い活発な意見が交わされた。
まず、開催の前週14日(土)に「プレ・ミーティング」が行われ、参加者の通信環境を確認し、セミナー全日程の内容が実行委員より説明された。
21日(土)夜、セミナー1日目。部長挨拶、自己紹介に続き、戯曲の読み合わせをディスカッションメンバー15人で、1ページずつ読む交代制で行った。声を出して読み合うことで、一人で読んでいるときには気づかなかったことがあり、刺激的な読み合わせになったと思う。読みの途中たびたび「島」と「鳥」の読み違いがあり、この類似の言葉に戯曲のテーマを予感させるものがあった。読み合わせ終了後、この戯曲からキーワードを各自3つずつ選択することが課題とされ終了した。
27日(金)セミナー2日目。千禾夫澄江夫妻の義娘、三田恭子さんによるトーク「私からみた、舅と姑」が行われ、生活を共にした三田氏ならではのエピソードが多く語られ、澄江の人となりが垣間見えるようだった。この夫婦の不文律として、「家族間では互いの仕事を批判しない」ということが厳格に守られていたという。また、千禾夫と澄江は互いの作風を「恋愛至上主義」ではないと語っていたという話は戯曲読解のヒントになったかもしれない。トークのあと、15人の参加者からキーワードが発表された。3組に分かれブレイクアウトルームによるディスカッションが行われた。3つのグループは、選択されたキーワードのうち「翼」「霧」「人間関係」がピックアップされ振り分けられた。ブレイクアウトルーム終了後、各チームでの報告がなされ、さらに、参加者全員が自ら選択したキーワードについて言及していった。なかでも「霧」「翼」の象徴性、主人公・ひさと山根晴吉の行動線について、強い関心が寄せられた模様である。
28日(土)セミナー3日目。演劇研究の高橋克依氏によるレクチャー「北海道開拓期の素人芝居」が行われた。過酷な環境のなかでコミュニティーがどう形成されていったか、その時に演劇というものが大きく関与していたことが報告される。また、北海道入植者たちの社会的背景についても解説され、北海道を舞台とした戯曲読解への手掛かりとなった。その後、前日に続き、ブレイクアウトルームを使用したディスカッションが行われた。この日は、「社会問題」「環境」「逃走」などのテーマごとに分かれた。女性ばかりとなったチームでは、キーワード以外にも登場人物、山根晴吉の人間性に強い関心が寄せられたようである。終盤、全体ミーティングで「プロローグ」の解釈をめぐって議論が白熱した。前日よりも各自戯曲への関心が高まり、翌日のプレゼンテーションに弾みをつけた格好となった。
29日(日)セミナー最終日は、このセミナーを振り返った軽めの全体ディスカッションののち、15人が一人ずつこの戯曲について5分から7分のプレゼンテーションを行った。参加者各自の発表は、多角的で、戯曲を集団で読み解く楽しさ、意義深さが実感された。主人公ひさの「つばさをきる」というセリフの裏には、現実的な生活の実践に重きを置くという決意が込められており、それは澄江の人生哲学と重なるような気がする。『鳥には翼がない』というこの戯曲には、各登場人物の魅力的な行動線のほかに、女性問題、歴史的背景、地域の特殊性など、多様多彩なモチーフが盛り込まれ、まさに戯曲研修の課題として最良のテキストだったと考える。

報告者:篠本賢一 
(日本の戯曲研修セミナーin東京2021担当実行委員
/ 広報部)

日本の戯曲研修セミナーin東京2021
『 田中千禾夫&田中澄江を読む! 』

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