日本の戯曲研修セミナーin東京2021 ~田中千禾夫『国語』~オンライン版 報告

「田中千禾夫&田中澄江を読む!」 ~田中千禾夫『国語』~

今回のセミナーは公募で選ばれた演出家、豊永純⼦さんを迎え、様々な背景を持つ俳優5⼈(天野眞由美さん、⻫藤沙紀さん、津⽥真澄さん、中村早⾹さん、⽮内久美⼦さん)や実⾏委員と共に、⽥中千⽲夫⽒後期の挑戦的な作品『国語五巻 〜私の家庭劇〜』(通称『国語』。以下、『国語』と記載する)を探る6⽇間となった。
当初は、最初の4⽇間はオンラインで⾏い、最後の2⽇間は対⾯式で⾏う予定であったが、残念ながらコロナの感染者数の激増、医療の逼迫により、ぎりぎりまで模索した結果、苦渋の決断で6⽇間すべてをオンラインに切り替えることになった。
1⽇⽬は『国語』という作品を全員で声に出して読み、続いての3⽇間はこの作品がどういう作品であるのかを、作家⽥中千⽲夫⽒の経歴や歴史的背景、特にこの作品がテーマとして扱っている当時の「国語」問題について確認しながら探った。そして、本来は対⾯で⾏う予定だった残り2⽇間は、4⽇間で探ったことを元に『国語』という作品を現代に⽴ち上げようとした場合にどのような可能性があるのかをディスカッション・試⾏する⽇となった。また、2⽇⽬に『国語審議会』の著作者である近代⽇本⾔語史の安⽥敏朗⽒、4⽇⽬に現役国語教諭の佐々⽊宏⽒をゲストに迎え、「国語」問題や教育問題について、研究者・教師の視点からのお話を伺った。また、天野眞由美さんからは桐朋学園や俳優座での千⽲夫⽒のお話を伺うことができ、千⽲夫⽒の⼈柄の⼀端に触れることができた。
この5幕構成の作品の構造として、1幕と5幕の「国語」のティーチイン(討論会)が、2〜4幕の兵部家(⻄村家)の家庭劇を挟んでいて、しかも5幕はリアリズムが破綻したような舞台装置の設定もあり、この時期の⽥中千⽲夫作品(に限らず、この時代の実験的な作品)に⾒られる、不条理演劇的な「分かりにくさ」のようなものがあり、⽬で読んだだけでは何をこの作品で伝えたいのか=何が「⾯⽩い」のかがよく分からなかったが、初⽇に声を出して読むことにより、コント的な要素や登場⼈物の様々な「国語(その⼈物の⽴場や役割における、⾔葉の選択や語尾等による⾔葉遣い。例えば、古⾵な⾔葉、若者⾔葉、ざます⾔葉、狂⾔⾵の⾔葉等)」の⾯⽩さが⾒えてき、当時の時事的なネタなどもふんだんに盛り込まれており、そのスペクタクル的な要素で興味を惹く作品だったのだということを発⾒した(個⼈的な意⾒としては、後期の千⽲夫⽒の作品はより感覚的に⼈に何かを想起させ伝えることを前提としており、演劇というメディアで表現することの意味を模索していたのではないかと思う。ト書きも、千⽲夫⽒独特の、俳優に感覚で伝えるような⾔い回しに変わっていった)。
安⽥敏朗⽒のトークでは、当時の「国語」問題について、千⽲夫⽒の『国語』で実際に書かれている台詞と照らしながら解説していただき、この作品の中に散りばめられている(そしておそらく、千⽲夫⽒がこの作品を上演する動機となっている)、国語国字問題が参加者の間で共有できた。
佐々⽊宏⽒のトークでは、間接的ではあるが、現代教育現場で試⾏錯誤されている、アクティブラーニングのお話を伺うことができた。国語国字問題は国語教育改⾰と直結しているが、特に教育改⾰というものがどのような影響を教育現場に与えるか、どのように学ぶ者(とくに次世代の若者たち)に影響していくのかを実感することができた。
最後の2⽇間では『国語』を現代に⽴ち上げる為に、作品の書かれた1966年から現在の2021年の間に⽣まれた⾔葉遣い=「国語」をピックアップし、その「国語」を使った登場⼈物を登場させたらどうなるかを試⾏してみようということになり、その新たな「国語」として、コギャル語やラップ調、かかあ天下⾔葉、初⾳ミク、SNS等、参加者から多数上がった。しかし実際に新しい⼈物を登場させようと試⾏する過程で、千⽲夫⽒の作品に登場している⼈物は時代が変わっても様々な世代をカバーしていること、また、「その登場⼈物」=「その⼈物の背負っている主張」が重要であること等が分かり、結果として、オンラインで2⽇間という限られた時間内では⽴ち上げるまでには⾄らなかった。残念ではあるが、むしろ、この『国語』という作品が緻密に構築されていることの証明となり、その発⾒を共有できたことは、豊永さんは元より全参加者にとって有意義な試⾏であっただろうと思う。また作者の⾔葉に対する考え⽅を探る為に、千⽲夫⽒⾃⾝が書いた俳優術書『物⾔う術』を参考⽂献として取り扱った。この本は作家が俳優に対して、どのように戯曲の中の⾔葉を分析して欲しいか、その分析を元にどのような技術を修練し、その結果としてどのように発話をして欲しいかが詰まっており、この本との出会えたことも、個⼈的にはこのセミナーの⼤きな収穫となった。

報告者:蔵 人
(日本の戯曲研修セミナーin東京2021担当実行委員
/ 広報部)

日本の戯曲研修セミナーin東京2021
『 田中千禾夫&田中澄江を読む! 』

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