日本の戯曲研修セミナーin東海2020
『永井荷風の戯曲を読む』報告

日本の戯曲研修セミナーin 東海 2020
「永井荷風の戯曲を読む」

開催日時:2021年1月21日(木)~1月30日(土)

開催会場:芸術創造センター

『春情鳩の街』コーディネーター:かこまさつぐ(試験管ベビー)

『早 春』コーディネーター:はせひろいち(劇団ジャブジャブサーキット)

 本年度の戯曲研修セミナーは、昨年度までに引き続き東海では近代戯曲を取り上げようということで小説家・永井荷風の戯曲『春情鳩の街』『早春』の2本に取り組み、昨年度と同様に2作品のうち一方を出演者の一般公募を行いつつ稽古も一般公開しながら、公開リーディングと「永井荷風の戯曲と小説」と題した特別講演会を行った。
 また、コロナ禍ということもあり、東海ブロックでは初めてのオンライン配信も実施し、感染対策を含めて今の時代における公演のカタチというのも模索した事業になった。


 かこまさつぐがコーディネーターを務めた『春情鳩の街』では、一般公募者に合わせて、かこ氏が代表を務める試験管ベビーから賀久泰嗣さんと波多野卓さんも招いて公開リーディングに挑んだ。
 『春情鳩の街』は、カフェー(かつての遊郭のような社交喫茶)を舞台にした男女の群像劇で、好色で自由に生きた永井荷風らしさの詰まった戯曲であった。
 公開リーディングでは、丸椅子を菱形状に配置し役者を座らせ、前半と後半で役者の向く方向だけを変えるシンプルな見せ方で戯曲の関係性の変化を表現した。
 コロナ禍ではあったが、一般参加者の方は幅広い世代の方(20 代~60 代、女性、見学者を含む)が集まり、積極的な姿勢でリーディングを楽しんでいた。


 はせひろいちがコーディネーターを務めた『早春』は、昨年から引き続き劇団サラダのティナ棚橋さんと協会員の岡田一彦が出演し、はせ氏が代表を務める劇団ジャブジャブサーキットから荘加真美さんと林優花さん、そして名古屋の学生劇団・愛知学院大学演劇部“鯱”から田中さくらさんを招いて公開リーディングに挑んだ。
 『早春』は、絵描きの父と女優になりたい娘の親子の話である。今も昔も変わらない厳しくも優しい普遍的な親心が、演劇に携わるものとして胸に突き刺さった。
 公開リーディングでは、舞台中心の三脚の椅子と二畳分の具象的な舞台セットのなか、リーディングパートと芝居パートにメリハリをつける表現をした。


 特別講演会では、名古屋在住の芥川賞作家・諏訪哲史氏をお招きし「永井荷風の戯曲と小説」というテーマで永井荷風の自由奔放な生涯を紹介した。
 「永井荷風は俗悪なものに美を感じていて、それを切り取っていた」という永井荷風作品の魅力に関する解説や、「演劇にとても興味があり、落語家に弟子入りしたり、歌舞伎の拍子木を習ったり、座付き作家をしていた」という永井荷風の小説家でない一面の解説や、「品性を下げ、醜く生きよう」とする永井荷風の生き様が印象に残った。
 永井荷風は自分の実体験や知人の実話を元に作品を書いていることが多いようで、今回取り上げた「春情鳩の街」「早春」にもそれ思わせる要素が多いように感じた。


 今回の事業は「2020 年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」でもあり、『春情鳩の街』では自劇団の若手俳優の賀久さん、波多野さんを起用し、『早春』でも自劇団の若手女優の林さん、学生劇団から田中さんを起用し、普段彼らが触れることのない近代戯曲に真正面から挑み、若手の育成も図っていた。
 東海ブロックでは、これからも普段触れることの少ない近代戯曲に積極的に挑戦することで、これからの次世代を担う若手演出者や若手演劇人の育成も続けていきたいと思う。

報告者:西尾 武
(日本の戯曲研修セミナーin東海 実行委員)

2021年1月30日に名古屋市芸術創造センターで開催された日本の戯曲研修セミナーin東海「永井荷風の戯曲を読む」公開リーディングの様子と、公開リーディングに向けた稽古の様子です。
かこまさつぐ演出『春情鳩の街』とはせひろいち演出『早春』をリーディング発表し、芥川賞受賞作家 諏訪哲史氏による特別講演会「永井荷風の戯曲と小説」を行いました。


▣ 日本の戯曲研修セミナーin東海2020『永井荷風の戯曲を読む』


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