フェニックス・プロジェクト2021~ 10年/今、この地に生きる ~【第1期】報告

「ファミリーツリー」朗読公演映像(1時間21分)

【第1期/8月】

 東日本大震災の被災地に生きる舞台芸術家を支援する事業として2011年に立ち上がった『フェニックス・プロジェクト』は、これまでにさまざまなイベント・公演を通じて被災地の声を他の地域へと届けてきました。あの日から10年が経ち、復興は進めども元には決して戻らず、たくさんのことが変わりました。この事業の役割も「支援」から「共有」へと変わる潮目に立っていると思います。今、10年経ったから振り返り、前を向き、伝えたいことがある。コロナ禍という舞台芸術にとって極めて厳しい状況に置かれても、やはり我々演劇人は演劇を通して震災と向き合いたいと思い、『フェニックス・プロジェクト2021〜10年/今、この地に生きる〜』を企画しました。

 フェニックス・プロジェクトの実行委員長である大西一郎氏、この事業の核を担う佐藤茂紀氏をはじめとする多くの有志が集まり、実行委員会が発足。オンラインで企画会議を重ね、8月〜12月、全3期に渡るプロジェクトが徐々に形作られていきました。遠隔地からの全面バックアップを受けながら、現地では伊藤み弥氏と渡部ギュウ氏が作品創作を、私が全体の制作を担当して、第1期「宮城県産演劇作品集〜この地に生きる言葉たち〜」を8月28日・29日にエル・パーク仙台にて上演いたしました。

 公演前日に緊急事態宣言が発令されるという状況下ではあったものの、200名を超える方にご観劇いただき、演劇は求められるものであり、必要なものなのだとお客様から勇気をいただきました。県をまたいだ移動は自粛を求められていたために、他の地域の方に作品を届けることが出来なかったのが心残りですが、理事をはじめ、多くの協会員のみなさんからメッセージをいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。作品を映像化し、この先配信することも視野に入れていますので、その際は是非ご覧いただければ幸いです。

報告者 大河原準介

 

 「初めて戯曲を書いた。読んでみてくれないか」と、作者から連絡が来たのは2016年。『ファミリーツリー』と題されたその作品は、全編がリアルな“私たちの”言葉で書かれていた。そこには作者と私が生まれ育った土地―津波で壊滅した町―の風が吹いていた。生者と死者の交感を描いたこの作品はきっと逝ってしまった者への手向けとなり、生き残ってしまった者への慰めになるにちがいない、いや、そうなってほしいと私は思い、プロデューサーを買って出て舞台化に向けて動き出した。初演は翌2017年、なんとか七回忌の年に間に合わせたかった。作者自身が演出した舞台は地元の人々からの熱い喝采を受け、善い供養になったと思った。震災でつらい思いをした人に対して、演劇にもできることがあると確信した。
 あれから、4年と少しの時が流れた。リーディング形式で何度か再演する機会に恵まれたが、復興支援活動の御礼にと神戸へ持って行く計画はコロナ禍で断念。臍を噛む思いでいたところ、和田喜夫さんからお声がけいただき、「フェニックス・プロジェクト2021」で上演する運びとなった。
 今回は、作者を出演させる代わりに私が演出を担当し、出演者のほとんども入れ替わって、新たな気持ちで作品に臨んだ。初演と再演で父親役を演じた小畑次郎氏は他界し、二代目となった俳優は「彼の役を受け継ぐ気持ちでやっている」と語った。今回が初舞台の子役は、震災当時生後3か月の乳飲み子だった。最年長の俳優は、入院治療を乗り越えて復活した。出演者11名がそれぞれの10年を経て、こうして舞台に立っている。
 自分のことを振り返ると、以前はひりひりして読むのが息苦しいほどだったセリフが、今はそうでもなくなった。海に行くことも、怖くなくなった。震災の経験は自分の血肉となり、忘れる/忘れないというものではない気がしている。しかし、忘れないつもりでいても、遠くなる。それも自然なことと肯定したい。
 初演からずっと叔母役を演じてきた俳優が「いつか祖母役をやってみたい」と笑った。被災地から生まれたこの作品が、いつか震災の記憶も越え、どこにでもある普遍的な物語として大きく育ってゆく――そんなことを夢想した公演だった。

報告者 『ファミリーツリー』演出:伊藤み弥


フェニックス・プロジェクト2021【 第1期 】
珠玉の宮城産作品2篇を一挙リーディング上演

 フェニックス・プロジェクトは、2011年3月11日の東日本大震災によって被災地のイベントがほぼ中止となり、被災地の舞台芸術家が劇場が使えなくなり公演を行うことができない、また日常の仕事を失う等、過酷な状況下にある事を目の当たりにした協会員の呼びかけによって私ども日本演出者協会が立ち上げた事業です。
 2021年の今年は東日本大震災より10年を迎え、昨年からのコロナ禍による被災も重ねての鎮魂の思いを捧げる場として、また今も残る復興の課題を演劇を通して共に考える場として、さらに新たな表現を探る場として「フェニックス・プロジェクト2021」を企画しました。会場としては宮城県仙台市を選びました。

 全体のコンセプトは、地域と社会とつながる。「いま、地域の抱えている個々の課題を、一緒に考える切っ掛けとしての出来事とする。演劇がどのように深く社会とつながれるか?芸術に何ができるのか?」
 それらを追求したいと考えています。


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