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——【D】 広報部特別企画——
【この本を読め!】

推薦人=丸尾聡(戯曲部)

『何はなくとも三木のり平』
父の背中越しに見た戦後東京演劇
小林のり一著、戸田学編 
(青土社2600円+税)

 「役者で演出家でその上とびっきり上等な喜劇人」(高田文夫)、三木のり平評伝であり、同時に喜劇の世界が堪能できる名著。だいたい引用が沢山の本はつまらないが、作家の前口上、台本の一部、その劇評が目の前に舞台を広げてくれる。古川ロッパ、森繁久彌、森光子、古今亭志ん朝、二代目水谷八重子、中村勘三郎、萩本欽一、倉本聰ほか豪華顔触れののり平談義も堪らない。それで十分だが「放浪記」の演出家であるのだから演出家は読まねばならぬ。

個人的な思い出。札幌の劇作家大会で錚々たるメンバーが待ち受け、アチャラカ喜劇団の旗揚げを発表せんとしていた。井上ひさし、別役実、筒井康隆、いとうせいこう、ケラリーノ・サンドロヴィッチ。絢爛たる文芸部メンバー。ここにのり平さんが乗り込み、座長を引き受ける手筈だった。
が、当日私が受け取ったマネージャーからのFAXには診断書が付記されていた。
「あれは、本当に残念だった」。昨年、別役さんの話をせいこうさんにお聞きした時、十年以上前の事を言い合った。
 最後ののり平劇団は夢幻の如く消えたが、これが「空飛ぶ雲の上団五郎一座」に繋がる。

 現場で、あるいは現場がなくなって、笑いとは何か、演劇とは何かを考えざるを得ない昨今、この本は耳目を開かせてくれながら、ある羅針盤になるのではないか、そう思っている。

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