《 令和 4 年度活動報告 》

2022年度の課題は、2021年度に続き、コロナ禍でいかに事業を推進するかの対応でした。協会のガイドラインに沿って、ほぼ全ての事業や会議をオンラインと対面で行いました。文化庁委託育成事業と障がい者による文化芸術活動推進事業、またコロナ禍対応の[ARTS for the future!2]事業、演劇緊急支援プロジェクトとしての活動、DM(観劇案内)、各部のオンライン勉強会、演劇入門の無料配信等が 主な事業でした。

 具体的には、“令和4年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業”として、「演出家・俳優養成セミナー2022演劇大学、国際演劇交流セミナー2022、日本の戯曲研修セミナー2022、若手演出家コンクール2022」の 4事業を行いました。出版では、『年鑑・国際演劇交流セミナー2022』の編纂をし、発行しました。 “令和4年度障がい者による文化芸術活動推進事業”は、東京都西多摩郡にある東京多摩学園の利用者さんと地域の皆さんとの演劇ワークショップ・創作、またネットワークを拡げるためのシンポジウムを実施しました。

文化庁[ARTS for the future!2]補助対象事業として、9月から11月に「みちのく演劇フェスティバル」も実施いたしました。  協会の全体の方針としては、更に《社会的役割》を考え、実施しようと努めた1年でした。なぜ演劇に支援が必要なのかを明確に語る言葉を共有することに努めましたが、ハラスメント問題で、演劇における社会性をしっかりと話し合う必要があります。

A. 国際演劇交流セミナー

1、国際演劇交流セミナー 韓国特集

毎年継続している韓国とのオンラインセミナーですが、2022年は「韓国の文化政策、韓国の芸術(演劇)教育を知ろう」をタイトルに、8月18日~20日にオンラインで3名の講師に登壇いただきました。初日は「韓国の文化政策と芸術(演劇)教育について」と題し閔 鎭京(ミン・ジンキョン)さんから、2004年から韓国が国策として始めた「文化芸術教育」の内容と取組みの紹介を。2日目は「韓国のファシリテーター育成プログラムについて」と題し劉 恩禎(ユ・ウンジョン)さんから、韓国の演劇教育の根幹である学校へアーティストを派遣する「ティーチング・アーティスト(TA)」プログラムについて。最終日は「韓国の芸術(演劇)教育における多文化共生プログラムについて」と題し安 鏞世(アン・ヨンセ)さんから、移民政策にかじを切った韓国で、多文化共生のために芸術(演劇)教育が、どのような取り組みを行っているかの実例紹介をしてもらいました。3日間とも、通常のセミナーと違う層も多く参加していましたことから、日本における教育と演劇についての関心の高さがうかがえました。

2、国際演劇交流セミナー オーストラリア特集

スリランカ系の劇作家・演出家シャクティダラン氏をオンラインで招き、「~自らの声で語り始めた難民、国家の神話を語り直す先住民~」をタイトルに9月16~18日にセミナーを実施しました。初日は講師より戯曲「カウンティング&クラッキング」執筆の背景や上演後の周りの反応などをレクチャーしていただきました。2日目は13名の俳優陣と実行委員で事前稽古した戯曲前半部のリーディング発表を講師立会いの下で実施。最終日は後半のリーディング発表をし、終了後、講師と質疑応答を行いました。多民族国家であるオ-ストラリアにおいて、「移民」というルーツを持つ講師が自身の家族や他の移民のルーツを何年も調査し、その実話を反映した3時間を超える叙事詩的戯曲のリーディングは、まさに「追体験」の効果が高く、参加者も体験的な学びに繋がりました。笑顔の優しいシャクティさんは「具体的で個人的なことは普遍に繋がります」、「人が集い空間を共有する演劇でしかできないことがあります」など、印象的な言葉をいくつも残してくれました。

3、年鑑編纂事業

国際演劇交流セミナー2022年鑑は上記の「韓国特集」、「オーストラリア特集」を記録したものです。編集委員は柏木俊彦さん、菅田華絵さん、前田有貴さん、和田善夫さんの4名で、会員の方に気軽に読んでもらいたいとの思いで「読みやすさ」を重視し作成しました。目次を詳細にすることで、より気になる部分から読めるようになっていますし、写真も多数配置し、よりイメージがしやすいと思います。また、今回は付録として、オーストラリア特集講師のシャクティさんのご尽力もあり、戯曲「カウンティング&クラッキング」の1,2幕部分を全文掲載しています。他にも、セミナー参加者による多様なレポート、2011年~16年までの日韓演劇交流の歴史年表、1999年からの国際演劇交流セミナーの歴史も掲載されています。コロナ以後、「アーカイブの重要さ」が見直されていますが、この年鑑も素晴らしい知識の源になっております。どうぞご活用くださいませ。

4、世界の今を聞く会

「世界の今を聞く会」はコロナ禍の2020年に有志で始めた活動です。当初は「コロナ禍の各国の演劇人の様子を知る」という目的のZOOM会合だったのですが、現在は海外在留の演劇人から現地の事情や活動を聞くという緩やかな集いです。「発表したい人がいるときに開催する」、「ボランティア的な自主運営」、「基本的にアーカイブはしない」という方針で進めており、国際部員ではない方も参加いただけます。今後もシンガポール、中国などのお話を伺う予定です。「話をしたい」、「聞いてみたい」など、興味のある方はこの会の世話人である国際部佐川大輔、公家義徳さんまでご連絡を。

<2022年度>

タイ前編ゲスト:中杉美知子さん 2023年2月5日
タイ後編&台湾国際芸術フェス編ゲスト:中杉美知子さん
    岩澤侑生子さん
2023年3月7日

              

 <いままでの開催>

ニューヨーク編 ゲスト:河原その子さん2020年6月17日
ベルリン編ゲスト:庭山由佳さん2020年7月8日
ルーマニア編 ゲスト:谷口真由美さん2020年7月31日
シンガポール編ゲスト:三好康司さん2020年8月27日
台湾編ゲスト:岩澤侑生子さん2020年10月31日
香港編ゲスト:アンソン・ラムさん2020年11月18日
ニューヨーク編その2ゲスト:河原その子さん2021年6月5日
ウィーン編ゲスト:佐藤美晴さん2021年7月5日
ロンドン編ゲスト:市川洋二郎さん2021年8月15日
北 京 編ゲスト:小林千恵さん2021年9月20日

B. 演劇大学

1、演劇大学in四国

開催日程:2022年10月28日(金)~11月20日(日)
開催形式:対面とオンラインのハイブリットワークショップ(シアターねこ×オンライン)
講師:鹿目由紀、土田英生、扇田拓也、西川信廣、平塚直隆

愛媛県が事務局を担当、全国各地からも沢山の参加者がありました。

鹿目講師の「戯曲の構造分析講座」は、Zoomにて井上ひさし著『父と暮せば』をテキストに、3日間の日程で行いました。講師自身が演出した舞台写真や手作りフリップなどを用いての戯曲分析は新鮮でした。受講者が戯曲の超目的を考察し、発表して語り合いました。台詞の音読はライブ感があり、リモート講座でも十分楽しめました。

西川・平塚講師の「演出講座」は岸田國士『ぶらんこ』をテキストに4名の受講者の視点で多種多様なプランが生まれ、演出とは何かを伝える上で有効でした。受講者からも、今回のプランを作品として上演したいなどの声があがりました。

土田講師の「セリフ術講座」は対面で開催、講師のオリジナルテキストを用い、呼吸とそのコントロールを中心に「実感として体験」しました。この講座はZoomでの配信と高知でのパブリックビューイングを行い、視聴した方からの質問も受け付け、広がりを感じました。

扇田講師の「演出家育成講座」は、「フィジカルな視点」をテーマに、オンライン・対面で約3か月にわたり10回の講座を実施、成果発表を配信しました。発話や所作の動機、演技について演出家と俳優が客観的かつ具体的に共有する方法を中心に、関係性へのアプローチ、場面ごとの緩急、音響、照明など演出として劇作にいかに取り組むかを学び、充実した講習内容となりました。 Zoomという簡易なメディアが進化し、参加しやすい環境が整いつつありますが、本来、演劇は身体性を重視してきたはず、演劇大学は、地方にとっては貴重な学びの場。今後も様々な可能性を丁寧に探りたいものです。

2、演劇大学in筑後

開催日程:2022年7月24日(日)~10月2日(日)
開催形式:対面とオンラインのハイブリットワークショップ(サザンクス筑後×オンライン)
講師:永山智行、須川渡、上田美和、彌冨公成、岡崎賢一郎、小松原修、鯨エマ、齋藤豊治、上田聖子、川津羊一郎
コーディネーター:和田喜夫

「演劇の世界を広げる」をテーマに、4つの講座と成果発表、シンポジウムを実施しました。実行委員にとっても、刺激的な新たな発見と出会いに満ちた時間になりました。

オンラインで実施した<演劇発見講座>は、コーディネーターの和田さんとともに、受講生がそれぞれに演劇を捉え直し、その可能性を大きく広げる時間となりました。「まちと演劇」「教育と演劇」「社会包摂と演劇」をテーマにとり上げた講座では、単発での視聴も受け付け、全国からご参加いただきました。

永山講師の<戯曲・演技講座>は、筑後にお住まいの方に話を伺い、その方の人生の物語を受講生が成果発表で演じました。他者の物語に深く耳を傾け、その物語に俳優が全身で向き合う「営み」と呼んだ方が相応しいこの創作から演劇の本質を再確認したように思います。

齋藤・上田講師の<演出講座>では、原作からミュージカルが出来上がっていくまでの課程を生美ました。また、地域の方々と演劇活動をしていくためには?を考えました。受講生からは終了後も通年開講の要望が多く聞かれました。

川津・岡崎講師の<あしたも、読みたい名作戯曲>では、名作戯曲を、その魅力についてディスカッションしながら読みました。一見読みづらく思えた坪内逍遥翻訳『ロミオとジュリエット』は、声に出してみるとその言葉選びがたまらなく人間らしく思え、古典の豊かな世界を堪能しました。

シンポジウム「演劇の世界を広げる―まちと演劇―」では、九州全県から特色ある活動を展開されているパネリストの皆さんにご登壇いただきました。九州には多彩な活動をされている演劇人が多くいます。演劇とまちとの出会いの場を育み続ける皆さんが繋がることが、地域演劇の大きな力になると信じています。 今回の演劇大学は、終始、演劇に触れるよろこびが溢れた時間でした。ここでの出会い・繋がりが継続し、更に広がっていくことを期待しています。

3、演劇大学in 大阪

開催日程:
【A】2023年1月13日(金)~1月15日(日)
【B】2023年2月4日(土)~2月5日(日)

開催形式:対面(ドーンセンター:大阪市)
講師:桂九雀、シライケイタ

昨年はフルオンライン講座でしたが、本年は対面で実施しました。

シライケイタ講座は3日間連続講座で参加者は23人、桂九雀講座は2日間4講座で36人の受講者がありました。いずれの講座も受講者の満足度は高く、次年度も同じ講師で開催してほしいという要望が多かったです。

シライケイタ講座では「受講者本人が選んだ題材」をもとにしてテキストを作成し、ワークショップを実施しました。6つのグループに分かれて稽古した成果を発表しましたが、いずれの発表も稽古期間が3日とは思えないような内容で、受講者たちも充実した表情をしていました。

桂九雀講座は「落語を演劇にしてみよう」と「演劇を落語にしてみよう」の2種類の講座を実施しました。落語という、一人で演じることが大前提の表現法は、男か女か、人間かそうでないか、現実か幻想かなど、あらゆる概念を越境しての表現を、観客と共有しやすいことを学びました。

落語を演じるための演台を設置し、雰囲気を高めるために講師助手が三味線を演奏して、出囃子や落語中の効果音も挿入して、落語を演じることを楽しめるようにしました。

講座の中で、桂九雀氏は、落語は話し方も小道具の扱い方も「お客さんからどう見えているかを常に意識することが重要」、一方でシライケイタ氏は、演劇は「相手役の気持ちをどう動かすかが重要」と強調していました。このように、落語と演劇で、表現対象へのアプローチも全く異なることに気がつき、より深い学びを得られる機会になったと思います。

C. 日本の戯曲研修セミナー

1、日本の戯曲研修セミナーin東京2022 岸田理生『ソラ ハヌル ランギット』を読む!

「岸田理生『ソラ ハヌル ランギット』を読む!」を対面で開催。東京企画ではコロナ禍の影響でオンラインでの開催を継続していたため、2019年以来、実に3年ぶりの対面式でのセミナーとなりました。『ソラ ハヌル ランギット』は岸田理生の「後期」にあたる作品ですが、戯曲の読み解き方や、上演意義の捉え方次第で、多様な演出を可能にする戯曲です。そのため、3名の演出家を一般公募し、戯曲の同じ1シーンをそれぞれ演出、上演を行、その立ち上げの過程含めて、参加者間でディスカッションを行う企画としました。岸田理生自身の演出作に出演していた池田ヒトシ氏に俳優の一員として参加していただき、また『岸田理生の劇世界』(大阪大学出版会)の著者である岡田蕗子氏にトークを依頼し、岸田理生の青年期、寺山修司との関係、国際共同創作など、岸田理生の表現の軌跡について情報を共有、岸田理生の世界に初めて触れる演出者と俳優にとって充実したセミナーとなりました。上演発表には20名が集まり(コロナ対策による客席数の制限有り)、発表後のディスカッションでは、岸田理生と創作をともにしていた宗方駿氏を交え、岸田理生戯曲の象徴性、女性表象の表現の方法など、岸田理生戯曲の可能性と現在性をめぐり熱い議論が交わされました。これまでは戯曲研修セミナーで女性作家を取り上げる機会が少なかったのですが、ここ数年、秋元松代、田中澄江をはじめ、オンライン①での『青鞜』企画など、積極的に取り上げており、意識的に継続していきます。

2、日本の戯曲研修セミナー@オンライン2022
雑誌『青鞜』を読む!岡部耕大
『肥前松浦兄妹心中』を読む!

コロナ禍で開始したオンライン企画を継続的に実施するため、オンラインの独立企画として、2022年度は岡部耕大企画と青鞜企画の2企画を開催。地域を問わず参加・見学ができると共に、チャット機能を活用するなど、オンラインの特性を活かし充実したセミナーとなりました。参加者は岡部耕大企画が31名、青鞜企画が42名。

岡部耕大企画では、全国各地の演出家・劇作家が集まり、岡部耕大『肥前松浦兄妹心中』のディスカッションを行いました。「松浦弁」が多用されるなど読み解きが困難な要素を解きほぐすために、ディスカッションメンバー13名のうち半数に九州で活動する演劇人を選び、方言の意味を理解しそのリズムを味わうことで、戯曲の言葉へのアクセスを身近にしました。事前に作者のインタビューや作者本読みを録画し、参加者と共に視聴しながら議論を進めました。また、ゲストとして『炭鉱と美術』の著者であるアーティストの國盛麻衣佳氏をお呼びし、炭鉱の歴史や、その労働の中での芸術活動のありかたについてレクチャーを開催。最終日にはディスカッションメンバー全員がプレゼンテーションを行い、多様多彩なモチーフを共有することで、さらなる発見を得ました。

青鞜企画では、日本初の女性による文芸同人誌『青鞜』に掲載された戯曲のうち13作品を取り上げ、発表者7名が作家や戯曲についての発表を1時間ずつ担当し、その後全員でディスカッションを行いました。『青鞜』に集まったメンバーの多様さを実感し、大正期における封建制・家父長制のなかで女性が戯曲を書くという行為そのものの意味を考える時間となりました。また劇作家による戯曲解釈を聞くことのできる貴重な機会となり、演出者と劇作家の交流の場としても有効に機能しました。演劇研究者である井上理惠氏をゲストに招きレクチャー「女たちの叫び!」を開催。取り上げた戯曲は、荒木郁子『陽神の戯れ』『闇の花』、長谷川時雨『手兒奈』『夢占ひ』『或日の午後』、上田君『モルヒネと味噌』、小林哥津『お夏のなげき』『女ばかり』、原田皐月『習作』、岡田八千代『おまん源吾兵衛』『二人の女』、岡田ゆき『ある男の夢』『幕間になる迄』です。

3、日本の戯曲研修セミナー アーカイブ

戯曲研修部では、2021年度から始まったWebアーカイブ事業として、引き続き2022年度に実施した雑誌『青鞜』の戯曲群、岡部耕大、岸田理生、また過去に実施した三島由紀夫、秋浜悟史の記録に取り組みました。そして2022年度にアーカイブした作家、田中千禾夫・田中澄江の2作家の記録をさらに充実させました。アーカイブ事業リーダーである川口典成が中心となり、 セミナーの育成対象者のレポート、ゲスト講師としてお願いした研究者・教師などによる教材、セミナー時の映像、また事前のインタビュー映像などを収集、掲載しました。映像には情報補償として字幕もいくつか付けました。未来の演出家や演劇人に向けて、有益かつ論争的な場となることを目的としており、育成対象者にとってはさらに理解を深めるための、参加できなかった若手演劇人には新しい学びのための貴重な資料であり、積極的な活用が期待されます。

4、日本の戯曲研修セミナーin福岡2022 木下順二を読む!〜劇のことばのつくりかた〜

今回は劇作家・木下順二とその戯曲に触れていくにあたり、〈前期〉〈後期〉という形で会期を分け、前期はオンライン、後期は対面での研修を行いました。事業全体のテーマを【劇のことばのつくりかた】とし、木下順二のドラマツルギーに触れていくために、講座ごとに学びの切り口を変え、取り組むこととなりました。

〈前期〉では演出家の鵜山仁さんを講師としてお招きし、オンライン参加者7名と演出家が共に戯曲『三年寝太郎』を声に出して読みながら、ディスカッションを繰り返し、登場人物の意識の流れや行動原理などを中心に考えました。最終日には『三年寝太郎』を上演すると仮定し、参加者それぞれがアイデアやスケッチなど持ち寄り、イメージを共有しました。演出家が戯曲をいかに読んでいるのかに触れる貴重な機会となり、また、オンライン開催によって活動地域を問わず交流の場を持つことができたことも一つの成果といえます。 〈後期〉は読み合わせ会、リーディング上演、上演前レクチャー、シンポジウムなどの講座を対面で実施しました。読み合わせ会では、劇作家・福田善之さんにコーディネーターとして『風浪』『おんにょろ盛衰記』『東の国にて』の3作品を推薦していただき、地元演出者たちの進行で参加者と共に読み進めました。直接親交のあった作家の方のエピソードに触れ、作家の存在をリアリティを持って感じました。リーディング上演では戯曲『暗い火花』のト書きをイメージした〈停電した状態〉で上演し、どのような時空間が戯曲の裏に隠されているのか、五感を使って考えました。また、上演前には評論家の西堂行人氏のレクチャーで観客への導入を、そしてシンポジウムではリーディング上演を振り返って、研究者とプレイヤー、観客が相互に意見交換を行いました。

5、日本の戯曲研修セミナーin大阪2022 田中澄江『月夜の新聞』を読む

 2022年9月9日から11日までの3日間、田中澄江の『月夜の新聞』を題材として、コロナ禍でも視聴育成者が参加しやすいよう、来場とオンライン、どちらでも参加できるハイブリット型で実施しました。1日目に俳優によるリーディングの上演、2日目に福岡女学院大学准教授、須川渡によるレクチャーとディスカッションを経て、3日目に神田真直(劇団なかゆび)、合田団地(努力クラブ)、前田都貴子(劇団未来)の3名の若手演出家(パネラー)が、それぞれの演出プランのプレゼンテーションをし、視聴育成者も交えたシンポジウムを行いました。3日間を通して司会を関西ブロックの山口が務め、最終日のプレゼンテーションとシンポジウムでは日本演出者協会戯曲部の川口典成がファシリテーターを務めました。

 当初は登場人物の多さや、独特の構成、時代背景や作家の思想について難しい部分もありましたが、リーディングやレクチャー、ディスカッションを通じ、作品理解が進み、3日目のプレゼンテーション、シンポジウムでは3名の若手演出家の個性豊かな演出プランが出され、その後のシンポジウムでは視聴育成者も交えた活発な議論が行われました。

 パネラーや視聴育成者からはこれまであまり知らなかった田中澄江という作家について興味や理解が深まったという声や、今後の創作活動に大いに参考になったなどの声が聞かれました。作/演出を兼ねる新作主義の公演が多い中、演出家が他者の戯曲と出会い、分析し、理解を深め、自身の演出プランを作る過程を共有できたことは大きな成果でした。  視聴育成者は44名でした。

6、日本の戯曲研修セミナーin東海2022 東海地方に縁のある演劇人シリーズ第4弾 菊本健郎特集

2021年1月28日に名古屋市芸術創造センター(会議室、リハーサル室)で実施しました。

東海地方に縁のある作家シリーズとして「菊本健郎」を取り上げ、演出として、協会員の3名(川村ミチル「ある日の漱石と夫人」、渡会りえ「翁ひとり語り「嘆異抄異聞」」、ほりみか「ごきげんなすてご」)が担当しました。

菊本氏が書き残し未発表であった「在る日の漱石と夫人」を川村ミチルが演出、劇団舟木スタジオ公演として上演され、舟木淳氏が『第10回 松原英治・若尾正也記念演劇賞』を受賞し、その後も、再演を重ねている 翁ひとり語り「嘆異抄異聞」を渡会りえが演出。1993年俳優館の学校公演のために書かれたミュージカル「ごきげんなすてご」をほりみかが演出。

また、協会員のふじたあさや氏をゲストに迎え「座談会「菊本健郎を語る会」」(司会・はせひろいち氏)を行いました。パネリスト各々が大切にしている亡き菊本氏との思い出を湿り気無く導き出した。菊本氏の培われた教養の深さに裏付けられた洞察力、先取の才、感性の豊かさを若手演出者、俳優に伝え、若手育成を目標としました。 東海ブロックでは、これからも普段触れることの少ない近代戯曲や地元の劇作家に積極的に挑戦することで、これからの次世代を担う若手演出者や若手演劇人の育成も続けていきたいと考えております。研修中の配信も行いました。記録DVDを作成し、協会員、出演者、ゲストに配布しました。

D. 若手演出家コンクール

公募開始の2022年5月当時、劇場公演における客席数の制限などコロナ禍の影響はまだ継続していましたが、ワクチンの普及と感染による免疫獲得の増加傾向より、最も感染拡大の恐れの強かった状況からの緩和を見越して、今年度は2次審査における審査はDVD審査の考慮を外し、実技審査のみ(直前中止の場合は考慮)という応募条件としました。公募の段階で2次審査での実技公演の上演準備への躊躇があってか、例年より少ない64名の応募となりました。が、コロナ禍により公演活動に消極的な傾向にある近年において、応募者64名から劇場での公演を挑む意欲を強く感じとることができました。今後の演劇活動活性化への展望を受け取ることができたことは成果に値すると思います。応募者への評価の仕方については丁寧に議論を重ね、若手のこれからの可能性と、社会に紹介する従来の目標に注力しました。1次の応募者(育成対象者)は64名、2次15名、最終は4名。1次審査、2次審査で公平な協議をした結果、最終審査に進んだ4名は東京の春陽漁介、京都の西田悠哉、名古屋のニノキノコスター、盛岡の村田青葉とすべて異なる広範な地域からの選出となりました。下北沢の劇場(東京世田谷区)で開催した最終審査会において、優秀賞受賞者として各地域の演劇人を紹介できたことは大きな成果だと思っています。

コンクールがなければ出会うことのなかった、離れた地域の優秀賞受賞者4名が最終審査会で一つの劇場に集結し、お互いに公演を観劇し合い、刺激を受け合い、各作品について審査員と真剣に対話を行ったことはなにより大きな学びとなり、今後の彼らの演劇活動への育成の大きな成果となったと考えます。 翌週の最優秀賞受賞者による記念公演は、2021年に最優秀賞を受賞した亀尾佳宏により『卒業式』というタイトルで昨年上演した公演を亀尾の劇団である劇団一級河川と島根の高校生たちと同劇場「劇」小劇場で3月10日~12日に上演し、3日間7公演で448人の動員を得ました。

E. 社会包摂部

①社会包摂部定例会議の開催

②分科会の開催

手話勉強会2022

2022年度の手話勉強会も、ひと月に原則2回、各90分間のオンライン開催で行われました。講師は社会包摂部員の庄﨑隆志氏、金子真美氏、髙井恵美氏。学習者として社会包摂部員有志と、部員とつながりのある有志(非協会員)が参加しています。勉強会中は音声を使わずにやり取りをし、確認や必要に応じて筆談をします。会話のトピックは、季節の話題、時事ネタ、個々のニュースなど。手話勉強会が、手話を学びながらお互いのことを知る場になっていると感じています。

③文化庁委託事業

「令和4年度障害者等による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」

楽しくつながるプロジェクト

ワークショップ 奥多摩のみんなでつくる奥多摩のお芝居 『 奥多摩の昔話 』

東京多摩学園と、奥多摩町近辺に住む方々と一緒に、11月6日(日)奥多摩に昔から伝わっている話を3つ入れて、「奥多摩の昔話」を福祉会館で上演致しました。

東京多摩学園19名と一般参加者10名が15日間の稽古を経て、30分の作品を創り上げましたが、公演のお知らせを回覧板で回したり、チラシを地元の人に頼むなど、地域と一緒に取り組みました。

3つの作品を繋ぐのは難しいため、語り部となるおばあさんが、昔話を聞かせるように始まり、その作品の中にお地蔵さんを置くことで、皆が自分の願いを話したり、 また最後は自分たちで考えた振りで、奥多摩音頭を踊り、奥多摩のテーマソングもオリジナルで創って歌うなど、一体感のある作品になりました。聴覚障害の方が一人参加されたので、毎回手話通訳にもお二人来ていただき、さまざまな障がいをもつ方々へのサポートを考える公演ともなりました。本番は、町長さんはじめ100名を超える方々に喜んで頂けました。

障害のある人もない人も、この作品の中で生き生きとしていたのは、演劇の持つチカラです。参加した一般の方々は、東京多摩学園の事をはじめて知り、利用者さんのもつ障がいを、人間の持つ個性として受けとめ、利用者さんも安心して共演者に頼り頼られるというお互いを認め合った交流が生まれ、笑い溢れる稽古場となりました。

共感すること、共有した時間が、その後も続き、近辺に住む人たちが東京多摩学園に遊びに行くなど交流も生まれました。 社会を、環境を、これからも変えていけるような演劇で、尽力したいと思います。

オンラインシンポジウム
障がいのある人たちとつくる演劇の可能性!」Part3

学びの場を増やし、ネットワークを拡げるため、オンラインによるシンポジウムを8月に実施しました。タイトルを『障がいのある人たちとつくる演劇の可能性』とし、パネリストに庄﨑隆志氏、飯田浩志氏をお招きして、それぞれの活動をレクチャーしていただきました。その後、佐藤拓道氏が加わりディスカッションを行いました。視聴参加者は 70名でした。このシンポジウムは毎回、質問やアンケートが多く届き、お互いの学びの場が強く求められていると感じています。『障がいのある人たちとつくる演劇の可能性』のシンポジウムは全て協会ホームページにてアーカイブ配信を行なっております。

F. ミチゲキ2022

「ミチゲキ2022」(みちのく演劇フェスティバル2022)は、東北生まれの個性豊かな演劇を東北の方々の近くの劇場にお届けするイベントとして、東北六県の若手演劇人により3ヶ月に渡り開催しました。

それぞれの会場で3団体が上演する、というスタイルで、お客さまにとっても団体にとっても、新しい出会いを生み出すことができました。総動員数は674名となりました。

その他、特筆すべきことが3点あります。

1つ目は、東北六県でおよそ50名がミチゲキ実行委員会として名を連ね、イベントをサポートしてくれました。

日本演出者協会と東北の若手演劇人が繋がったことは大きな成果の一つです。

2つ目は、苗券2,000円(東北の若手(U25)の皆さんへチケットをギフトできる券)が大いに活用されたことでした。総数は80枚を超えました。東京からだけでなく各地から支援が寄せられ、今後の企画の在り方を考える結果となりました。 3つ目は、この企画で出会った団体同士が共通テーマを掲げて新作公演をすることになりました。岩手と宮城で劇場公演を行うこの試みは非常に嬉しく、総指揮の大河原・澤野でも出来る限りサポートしていきたいと考えております。

G. 広報部

2022年度の広報部活動について報告をさせていただきます。

誌面での協会誌『D』が終了し、新たな試みとして始まったWebマガジン『D』のスタートには、約1年半という月日を要してしまいました。ご尽力くださった皆様ありがとうございました。広報部としてこの転換とも言える時期をどのように乗り換えていくか?手探りで考えていくのと同時に、それぞれの演出家としての仕事にも変化があった時期のように思います。今後も社会における結果を協会に還元していけるよう。広報部一同取り組んでまいります。 また、2023年度は広報部員を全国各地より募集したいと考えております。東京以外の演出家と出会いの橋渡しをする広報部に成長できるよう取り組んでまいります。一緒に演出者協会を盛り上げて参りましょう。

―― 事業内容 ――

  • 広報部定例会議の開催       
  • Webマガジン『D』のデザイン並びに運営方法の整理
  • Webマガジン『D』運用開始
  • 「長塚圭史✕落合陽一✕シライケイタ」鼎談
  • 各事業報告

H. 教育出版部

1. 教科書分科会は、6人の編集メンバーを中心に進めてきた演劇入門書「はじめての演劇」は、昨年10月7日ホームページにPDF版を公開しました。

同書は、「概要編」・「知識編」・「実用編」の3部構成による全36項目120 頁の内容となっており、これから演劇を始める中高生やアマチュア演劇の指導者を念頭に、親しみやすさ、分かりやすさに留意し、以下の23人の現役の演劇関係者に執筆をお願いいしました。

(五十音順・敬称略) 鵜山仁、浦島啓、笠浦静花、川口典成、黒澤世莉、鴻上尚史、佐川大輔、佐藤こうじ、篠﨑光正、 篠本賢一、田島佑規、谷澤拓巳、谷藤太、多和田真太良、中村ひろみ、中山佐代、成井豊、 乘峯雅寛、三輪えり花、守輪咲良、山崎哲史、山下和美、横尾圭亮、吉本有輝子

ただいま、書籍での出版に向けて、晩成書房さんと打ち合わせを重ね、修正を含む改定の作業に入っており、PDF版の公開は一時停止しております。

2. EPAD 「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業」 その後

2021年3月より公開している、Eラーニング動画『舞台芸術スタッフの仕事』は、総再生回数 50,000を超えており、これを公開している日本演出者協会・教育出版部のYOUTUBEチャンネルは、登録者が既に 1300人を超え、YOUTUBEによる収益化の条件の一つをクリアしており、今後もさらなる活用を検討しています。

3. そのほかの活動としては「演劇教育」「ハラスメント対策」「政策提言」それぞれの勉強会は休止中です。また、演劇の啓蒙と普及という観点から、高校演劇大会への「演出者協会賞」の設置について、準備・検討を行っています。

I. 日韓演劇交流

日韓演劇交流センターは新体制へと変わり、これまでの戯曲集とドラマリーディングという形での交流を継続しながらも、新たなステップとして「韓国現代戯曲ドラマリーディングネクストステップ Vol.1)」に名称を更新しました。それに伴い、これまでの演出家・俳優の公募に加え、翻訳者も公募する取り組みに挑戦しました。また、韓国から作家含め5名の演劇人を招聘して、久々の対面での交流も果たしました。今後の展望として「日韓演劇ラボ」を立ち上げ、これまでの20 年間の演劇交流のノウハウを活用しながら、次世代の演劇人の育成と韓国との演劇交流をさらに進化させていきたいと考えています。

J. 観劇案内

2021年1月よりホームページ内に「協会員公演情報」のページを開設し、協会員の関わる公演、および、協会員向け招待・優待をいただいた公演の案内を随時行いました。

公演情報は、ホームページの「公演情報登録フォーム」に各自で入力していただくか、観劇案内担当者が働きかけかけることで、収集しました。 コメントの文章をお願いしていますが、全体的にはほぼ無い状態でした。貴重な交流と考えの対話の場になればと思います。

J.  新入会員

協会員による交流や、オンラインによる事業での出会いによって、10名の方が入会されました。推薦者 2 名を条件としていますが、推薦される方には推薦文をお願いしました。コロナ禍で公演やワークショップが困難になっていますが、学びと情報入手のために入会される方が増えていらっしゃるように思います。 協会が現在の目標としている『社会的役割』を明確にし、そのことを多くの人に知ってもらうためには、演出に関わる者が、演劇についての認識や言葉を共有する必要があると思うのですが、その為にも会員を全国的に増やすことができればと考えています。

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