《 2021 年度活動報告 》

2021年度は、文化庁委託育成事業と、障がい者による文化芸術活動推進事業、またコロナ禍対応の演劇緊急支援プロジェクトとしての活動、DM(観劇案内)、各部のオンライン勉強会、「演劇入門」の作成等が、主な事業でした。

“令和3年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業”は、「演出家・俳優養成セミナー2021 演劇大学」「国際演劇交流セミナー2021」「日本の戯曲研修セミナー2021」「若手演出家コンクール2021」の4事業を行いました。出版では、『年鑑・国際演劇交流セミナー2021』の編纂、発行を行いました。

2021年度は、2020年度に続き、コロナ禍の中で事業を推進するための対応が課題でした。協会のガイドラインに沿って、ほぼ全ての事業や会議をオンラインで行いました。“令和3年度障がい者による文化芸術活動推進事業”は、東京都西多摩郡にある東京多摩学園の利用者さんとの演劇ワークショップ・創作をし、また、ネットワークを拡げるためのオンライン・シンポジウムを実施しました。 協会全体としては、《社会的役割》を考え、実施することを方針とし、努めた1年でした。長引くコロナ禍での支援・補償の問題に奔走しましたが、なぜ演劇に支援が必要なのかを明確に語る言葉を共有することに努めました。

A. 演劇大学

1、演劇大学in沖縄

開催日程:2021年9月17日(金)~20日(月/祝)

開催形式:Zoom会議システムを使用したオンラインによるワークショップ

講師:西川信廣、河合祥一郎、土田英生、扇田拓也、神在ひろみ、鐘下辰男

 演劇大学in沖縄2021~南の島の演劇大学~は、沖縄の現代演劇を始めとする舞台芸術全体のさらなる発展と質の向上を目的とした演劇大学in沖縄2019に続く2回目の実施でした。

 今回は新型コロナウイルス感染症対策のため、特に入念な準備と打ち合わせを重ねていましたが直前で完全オンラインへ移行となり、残念ながらリアル対面は叶いませんでした。

 オンラインでの実施には正直なところ消極的な思いが強くありましたが、実際に始まってみると新たな発見が多くあり結果的に刺激的かつ有意義な4日間でした。戯曲講座や戯曲分析講座は、以前の進行では考えられなかったPC画面共有によるリアルタイム作品修正や、チャット機能を活用した意見交換を行い、また、演出講座ではパワーポイントによるオンラインプレゼンテーションを行いました。さらに講座前後の移動時間などを気にすることなく雑談を楽しむなど限られた時間を最大限に活かし、とても前向きで詳細な課題出しができました。

もちろん全てが良いことばかりではありませんでした。次回実施時の改善点として、再びオンライン開催となった場合に備え、身体を使う訓練や稽古を伴う講座カリキュラム設定や、効率的かつより良い進行方法を検討しなければいけません。  演劇大学in沖縄2021ではふたつの大きな収穫がありました。ひとつ目は土田英生講師による戯曲講座で書き上げた三作品の合同上演が決まったこと、ふたつ目は西川信廣講師による演出講座を発展させた、あらたな講座の開催に繋がったことです。両企画ともに来年度の実施に向けて調整中のため詳細決定はこれからですが、確定次第改めてお知らせいたします。

2、演劇大学in 徳島

開催日程:2021年11月5日(金)~11月7日(日)

開催形式:対面(とくぎんトモニプラザ:徳島市)+Zoom会議システムを使用したオンラインによるワークショップ

講師:スズキ拓朗、はせひろいち、わかぎゑふ、平塚直隆、土田英生、明樹由佳

 2021年の演劇大学in徳島「想像力を育み、創造力で変えていこう!」は3年目を迎えました。内2年間はコロナ禍にあり、2021年も主にオンラインでの開催となりました。初年度は広く演劇に触れて頂くこと、2年目は全国初のオンライン開催、そして今年はよりそれを深化させることを目的に開催しました。具体的にはZoomで講師と参加者を繋いで行う長期型の講座をメインに据え、これまでの短期講座(3日間)メインではなく、創作の過程を学ぶことと、それを通して継続的に表現活動に携わる人数を増やしていくことを狙いました。

長期演出家育成講座は、スズキ拓朗さんに身体を使ったダンス作品、はせひろいちさんに会話劇の演出指導を、それぞれ担当して頂きました。演出家の育成を主眼に行われたこの講座の育成対象者は、これからの徳島の表現活動をリードしていくと期待しています。

役者の育成として長期俳優育成講座を設け、わかぎゑふさんに役者の育成をして頂きました。約1ヶ月間、Zoomを利用したオンライン実習を行い、仕上げに3日間の対面実習を行いました。積み上げてきた1ヶ月の指導が効を奏し、短期間の対面講座で皆、見違えるような成長が見られました。

長期戯曲講座(劇作)は、平塚直隆さんに担当して頂きました。受講者の皆さんに実際に書いてもらいながら指導するスタイルで講座を進め、受講者の作品がどんどんブラッシュアップされていました。

1日のオンライン集中講座として、実践的戯曲分析講座を設け、土田英生さんに担当して頂きました。チェーホフと平塚直隆さん(長期戯曲講座講師)の戯曲を使いながら、経験の浅い役者に向けて戯曲の読み解き方を丁寧に講義して頂きました。

また、短期講座として、3年連続で明樹由佳さんに朗読講座を担当して頂きました。今回はハイブリッド型として、講師と会場に集まった受講者をZoomでつなぎ、現地実行委員がサポートを行うことで、対面式と遜色ない形で実習を進めることが出来ました。 アフターコロナとなった際、対面式がベストであるのは確かですが、オンライン技術を活用した新しい形での講座が行えると、移動が原因で開講(講師側の都合)・受講(受講者側の都合)が難しい場合の選択肢になりうると感じました。 3年間の演劇大学を終えて、まだやり残したことが多いと感じますが、以降も何らかの形でワークショップの開催を継続し、コロナ後の演劇がより活性化するよう動いていきたいと思います。

4、演劇大学in 大阪

開催日程:2022年1月14日(金)~1月16日(日)

開催形式:対面(ドーンセンター:大阪市)+Zoom会議システムを使用したオンラインによるワークショップ

講師:わかぎゑふ、松本修、桂九雀、シライケイタ

●事業の成果

演劇大学IN大阪2021「いっしょに関西の演劇を元気にしたい」は「わかぎ講座」「松本講座」「桂九雀講座」「シライケイタ講座」「シンポジウム」と3日間に盛りだくさんの事業を実施できたことが第1の成果。参加者はどの講座もおおむね好評であった。参加者のほとんどが演劇経験の浅いアマチュアで、年齢は多岐にわたった。関西地区でコロナ禍であっても演劇を指向する人々が複数参加して「演劇人」のすそ野を広げられたことが第2の成果あった。第3はどの講座も自身が演じてみることだけでなく、他人の試みを見て学ぶことが多かった点。第4はシンポジウムにおいて初対面の演劇人同士がつながったことが大きな成果で、今後の関西エリアでの活動の支えとなったこと、とりわけ「演劇で生活してゆく」ことに関して各自の経験に基づいた具体的な話が聞けたことが大きい。「演劇で食う」ことに関して「食えている人」からはあまり具体的な話を聞くチャンスがなく、一般の就職活動と比較するとあまりにも情報不足で、これから社会に出る若者にとって「演劇」を自分の未来を賭ける仕事にするうえで、いくばくかの方針が示せたのではないかと推察する。この国で、「関西」で活動していくためのバックボーンの広がりに対して少しは貢献できたのではなかろうかと思う。

●事業における工夫

基本的に演劇ビギナーズに向けた講座を企画した。工夫した点は以下である。1参加しやすいこと、2できるだけ個人技のアップにつながること、3今後も継続しようとする意欲が芽生えること、の3点に留意して各講座の運営スタイルを決定した。

また、現代劇だけでなく、日本の古典芸能から学ぶための講座を取り入れ、落語を題材にして話劇を学ぶことは効果的だったと思う。

●事業の課題

今回は結果的に松本講座を除いてはすべてオンライン講座になってしまった。当初は「対面講座」を企図していたが予期せぬオミクロン株の大流行により関西エリア、特に大阪エリアが事業実施7日前になって緊急事態宣言に匹敵する勢いで増加していったことで、急遽、オンライン講座に切り替えたのだが制作的に非常に無理があり、講座開始直前まで受講者とのやり取りをせねばならなかった。今後はこのような事態を引き起こさないように早めの判断と複数人員による制作対応をせねばならないと強く思う。

●感想・評判

各講座とも参加者の満足度は高かった。ただ、対面からオンラインへの急な変更により受講者が減ってしまったことは残念であった。

参加者が今後、「演劇」というフィールドにかかわり続けることを祈念している。

B. 国際演劇交流セミナー

1、国際演劇交流セミナーエストニア特集

セミナー企画として初めて触れるエストニア演劇の紹介

本来はエストニアから講師を招き、対面にてワークショップを行う予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、講師の来日が厳しかった為、オンラインに変更しての開催となりました。

シアターNO99の芸術監督であったティート・オヤソー氏とエネリース・センペル氏の二人を講師として、これまで知る機会の少なかったエストニアの演劇について、タリン市内にあるオフィスから3日間、シアターNO99の映像等を見ながらのレクチャーを実施しました。

参加者は延べ90名(1日目30名・2日目31名・3日目29名)で、海外からの参加もありました。

シアターNO99設立当初のエストニアでの演劇事情に始まり、徹底した方法論。そして、政治的プロジェクト『統一エストニア』では、架空の政党を立ち上げ、選挙活動をした経緯に参加者もかなり興味深かったようで、参加者から質問も飛び交っていました。

パネリストとして、舞台美術家の佐々波雅子氏を招き、美術家から見たエストニア演劇についての話も聞くことができ、日本とエストニアで新たな交流が生れました。

2、国際演劇交流セミナー韓国特集

2020年に続くオンライン企画第2弾として開催しました。

韓国で数多くの演出賞を受賞しているソ・ジヘ氏と、劇作家として頭角を現し、多様なジャンルで活躍するオ・セヒョク氏の2名を講師として迎え、レクチャーを実施しました。

最終日には、オ・セヒョク氏の戯曲『楽屋のお掃除』を翻訳リーディングして、作家本人と作品についてのディスカッションも行いました。

参加者は延べ112名(1日目:34名 2日目: 41名 3日目:37名)でした。 ゲストとして、1日目に松本祐子氏、2日目にラサール石井氏を招き、活発な意見交換をすることができ、日本と韓国の交流をより深めることが出来たと感じています。

3、国際演劇交流セミナー香港特集

本来は講師を招き、対面でのワークショップを行う予定でしたが、コロナ禍により来日が厳しく、2020年に続いてのオンライン企画第2弾として開催しました。

会場は、香港・東京・京都の3都市をオンラインで繋ぎ、さらに東京と京都の2都市では参加者が対面方式で、オンラインと対面の併用型で行いました。演出家アンドリュー・チャン氏と東京と京都の参加者で「三島由紀夫」作品を題材にディバイジングシアターの手法で創作していき、最終日には成果発表を行いました。

ワークショップ参加者は延べ12名(東京7名・京都5名)でした。

見学者は延べ63名(1日目16名、2日目15名、3日目15名、4日目15名)でした。

また、香港出身で文学座の若手演出家インディー・チャン氏と日大芸術学部で学んだアンソン・ラム氏のふたりが通訳として活躍しました。 日本と香港との交流のさらなる発展に寄与したと言えます。

4、年鑑編纂事業

2019年度より3年かけての改訂計画を実施。1年目は「持ち運びやすく、手に取りやすい」を目指し、2年目は「戯曲の掲載」を実施しました。3年目となる2021年度は年鑑編集委員が一丸となって「読みやすさ、親しみやすさ」を目指し、資料写真も増やしました。 また、ホームページでは2020年度のダイジェスト版(3戯曲の掲載を含む)を公開しました。2021年度のダイジェスト版もホームページでの公開を目指して作業中です。

5、世界の今を聞く会

2020年に世界中に在留している協会関係者から現地の状況や演劇人の活動をZoomにて共有する会を不定期に開催しています。 2020年は、ニューヨーク編、ベルリン編、ルーマニア編、シンガポール編、台湾編、香港編と開催し、2021年はニューヨーク編その2、ウィーン編、ロンドン編、北京編を開催しました。

ニューヨーク編    ゲスト:河原その子さん   2020年6月17日

ベルリン編      ゲスト:庭山由佳さん    2020年7月8日

ルーマニア編     ゲスト:谷口真由美さん   2020年7月31日

シンガポール編    ゲスト:三好康司さん    2020年8月27日

台湾編        ゲスト:岩澤侑生子さん   2020年10月31日

香港編        ゲスト:アンソン・ラムさん  2020年11月18日

<2021年度>

ニューヨーク編その2 ゲスト:河原その子さん   2021年6月5日

ウィーン編      ゲスト:佐藤美晴さん    2021年7月5日

ロンドン編      ゲスト:市川洋二郎さん   2021年8月15日

北 京 編      ゲスト:小林千恵さん    2021年9月20日

C. 日本の戯曲研修セミナー

1、in 東京

今年度も引き続きオンラインでの開催とし、田中千禾夫&澄江企画と福田善之企画の2企画を開催しました。それぞれ企画ごとにセミナーの形式を変え、様々な興味関心を持った参加者に対してアプローチすることを目指しました。参加者は田中千禾夫&澄江企画が42名、福田善之企画が42名。

田中千禾夫&澄江企画では、①新たな形式の劇作を探求し続けた田中千禾夫の実験作『国語』(1966年)を公募にて選考した演出家・豊永純子氏とともに俳優を交えてオンラインにてディスカッション&発声を伴った「実験」を行う新企画、②北海道ノサップ岬の灯台を舞台にした田中澄江の群像劇『鳥には翼がない』(1960 年)を劇作家・演出家がオンラインにて一堂に会するディスカッション企画を開催。ゲストには、田中夫妻の義理の娘である三田恭子氏をはじめ、安田敏朗氏(近代日本言語史)、佐々木宏氏(国語教諭)、高橋克依氏 (演劇研究)と多様なゲストをお呼びし、それぞれの戯曲に対する新鮮なアプローチが参加者の学びに大きな効果をもたらしました。

福田善之企画では、『オッペケペ』を題材に、参加者それぞれが戯曲への「問い」を持ち寄り、その「問い」をめぐってディスカッションを行いました。作家の福田善之氏、また初演出演者の前田昌明氏へ、事前に実行委員がインタビューを行い、その映像を挟みながら、司会の丸尾聡氏がディスカッションを進行。参加者の「問い」がさらなる別の「問い」へと発展し、大きな学びの場となりました。

2021年度のオンライン企画は日本演出者協会のウェブ上にてアーカイブを行い、セミナーの抜粋映像はじめ、インタビューやレクチャー動画などが公開されています。

2、in 東海

東海ブロックでは、東海地域にゆかりのある作家を取り上げています。その第3弾として、愛知県出身の児童文学作家、新美南吉の『ラムプの夜』『〈無題〉第一場 東京市郊外に』『一枚の葉書』の3本の戯曲と、童話『きつねのつかい』『こぞうさんのおきょう』『手ぶくろを買いに』を戯曲化した作品、詩『明日』を元にした作品に取り組み、公開リーディングを行いました。「みんなで創ろう!舞台~新美南吉~」と題したワークショップ、公開リーディングと、ふじたあさや氏を講師に迎えた特別講演会「劇作家新美南吉」、「アフタートークショー」を行い、64名が参加しました。 童話作家としての認知度が高い新美南吉の、劇作家としての側面を発見し、再度、その面からも彼の作品を再読、考察してみる価値があると改めて強く感じる、実り多い研修セミナーとなりました。「みんなで創ろう!舞台~新美南吉~」は、急遽ZOOMでのオンライン講座・発表に変更実施し、小学5年生~高校生 計7名が参加。教育や将来を担う若手育成を狙い、講座を通して作品に対する理解や創造する喜びに加え、日に日に参加者の結束が見え、「創作」することによる「成長」が大きな成果でした。研修後には記録DVDを作成し、協会員、出演者、ゲストに配布しました

3、in 大阪

 田中千禾夫の『幸運の葉書─別の名「女豚S」─』を取り上げました。2020年度までの関西ブロックでの日本の戯曲研修セミナーは、一人の演出家が課題となる戯曲のリーディング作品を創作、上演し、その後シンポジウムを行うという形式でしたが、今回は5名の若手演出家が、初日に俳優によるリーディングとディスカッション、二日目、三日目に研究者によるレクチャーとディスカッションを経て、四日目に自身の演出プランのプレゼンテーションを行い、その後視聴参加者も加えたシンポジウムという形式へと大きく変更し、視聴参加者には戯曲から演出家がプランを立ち上げる過程を見てもらえるようにしました。

 また、新型コロナ感染拡大防止の観点から、フルオンラインでの実施とし、視聴参加者は30名(うち協会員8名)でした。

 5名の演出家は、たみお(ユリイカ百貨店)、酒井信古(発起塾)、鋳物佑樹(フキョウワ)、神田真直(劇団なかゆび)、蜂巣もも(グループ野原)という若手演出家で、リーディング終了時、この作品にどう取り組むべきか、手探りの状態だったが、二日目の田中千禾夫概論(須川渡:福岡女学院大学専任講師)、三日目の作品詳論(林廣親:中央大学特任教授)と、それに伴うディスカッションを経て、それぞれの演出プランが出来上がっていき、四日目のプレゼンテーションでは5人5色の面白い演出プランが提出された。

 今回のセミナーを通じて、田中千禾夫を初めて読んだという方も多く、いわゆる「新劇」というイメージから逸脱した作風は、「新劇」のイメージを覆し、現在の若手演出家、俳優など演劇に携わる人間にとって興味深いものであることを示せたのは大きな成果だった。  特に作/演出、新作主義が主流を占める小劇場の若い担い手にとって、今回の企画が、自分とは距離のある他者、先人との出会いの機会となり、それを自分が創作するとしたらという問いかけが、彼らの今後の創作活動を後押しする大きな機会となったことは喜ばしいことでした。

4、アーカイブ

戯曲研修部では、セミナーで取り上げた戯曲や劇作家を中心に、セミナーコンテンツや周辺情報をまとめたアーカイブづくりに着手しました。未来の演出家や演劇人に向けて、有益かつ論争的な場となることを目的としています。2021年はモデルケースとして、オンラインで開催された企画で取り上げた作家、井上ひさし、

田中千禾夫、田中澄江、福田善之をアーカイブ化しました。作家の紹介やインタビュー、また多彩なゲストによるレクチャーなどの動画コンテンツや、セミナー参加者の演出家や劇作家によるレポートブックを公開しています。過去のセミナーをはじめとして、さらに作家数や戯曲に対する情報を充実させていきます。

D. 若手演出家コンクール

昨年度に引き続き今年度もコロナ禍の中で公演活動ができないなどの理由で、応募を躊躇する方が増えるのではという危惧はありましたが、若手への励みになることを大きな目標とし、実施に踏み切りました。

1次審査は例年通りにDVD審査とし、5月1日から6月30日までを募集期間としました。コロナ禍の影響を考慮して、本来実地公演審査を対象としていた2次審査を、公演不可能の場合の対策として映像審査を導入したところ、全国から98名という、懸念していた予想をはるかに超える応募がありました。 1次審査は応募作品に対し、複数の審査員がDVDやテキストを見て批評をし、2次審査に進む15名を選出しました。応募者全員には、今後の創作活動に活かしていただけるよう、それぞれ審査員の批評を送りました。応募者よりとても参考になったという声も頂きました。

2次審査15名のうち、劇場公演を審査する実演審査は9名、映像審査は6名でした。実演、映像審査ともに5名の審査という公平性を重視して実施しました。コンクール審査員には東京だけでなく各地域の理事、コンクール最優秀賞者、また美術家等にも参加してもらうよう手配しました。全審査員によって書かれた、5段階評価の採点と審査内容詳細を元に、2021年12月13日(月)オンラインにて開かれた2次審査会により、約4時間にわたる議論の末、最終審査に進む優秀賞4名を選出しました。議事進行は実行委員長の大西一郎が務め、採点進行は部長の西沢栄治が行ないました。優秀賞に選ばれた4名(亀尾佳宏(島根)、田中寅雄(東京)、点滅(東京)、桝形浩人(愛媛))は、12月28日に開かれたオンラインによる理事会、演出者のつどい・忘年会に於いて紹介しました。

最終審査は3月1日~3月6日に東京、下北沢の「劇」小劇場で開催しました。昨年度同様に、2021年度は優秀賞4名の収入を考え、1回目の公演(平日)のみ、コロナ感染症対策にのっとった観客数に制限をした上で、有料観客の入場を可能に、また全公演を有料配信し、その収入を等分に分けるという方法をとりました。優秀賞4名は、対話劇に挑んでいる演出家、躍動感のあるダンスと生演奏と歌を演出に大きく取り入れた演出家、表現法に舞踏を中心においた演出家、など多様な演出方法で競演しました。最終審査員9名により実演審査が行われ、最終日の公開審査会で議論の上、亀尾佳宏が最優秀賞を受賞しました。公開審査の入場は関係者のみとしましたが無料でオンラインライブ配信にて一般の方にも公開をしました。

2021年度若手演出家コンクールにおいて、県外で公演活動をする機会の少ない島根県、愛媛県の演出家を紹介できたことは大きな成果だと考えています。 翌週の最優秀賞受賞者による記念公演は、2019年にコロナ禍の影響により記念公演を断念した2018年度最優秀賞受賞者一宮周平により同劇場「劇」小劇場で3月10日~13日に開催しました。

E. 社会包摂部

①社会包摂部定例会議の開催

②分科会の開催

手話勉強会2021

手話勉強会は、2021年6月にオンライン開催を前提として始まりました。月に2回、各90分間ほどの勉強会を開催しています。社会包摂部員の庄﨑隆志氏、金子真美氏、髙井恵美氏が講師となり、社会包摂部員有志と部員とつながりのある有志(非協会員)が参加。勉強会中は必要に応じて筆談を使いながらも、基本的には音声を使わずやり取りをし、自己紹介・日常的な会話・舞台に関わる言葉などを学んでいます。「VV (ビジュアル・ヴァナキュラー/視覚的な、ある集団の人々の生活に深く関連した文化) 」にもチャレンジすることもあり、表現にもつながる形でとても楽しく手話を学んでいます。

③文化庁委託事業

「令和3年度障害者等による文化芸術活動推進事業(文化芸術による共生社会の推進を含む)」

楽しくつながるプロジェクト

ワークショップ

2021年度は共生社会実現に向けた障がい者との共同創作5か年計画の2年目。奥多摩町の東京多摩学園の知的障がい者の皆さんと「奥多摩しいたけ物語」を練習、発表した。

1年目はコロナ禍のもと「たがやす」をテーマに、全てのWSと発表をオンラインで行ったのに対し、昨年度は「はぐくむ」をテーマに、園長、園生44人、外国人含む職員9人が、日常的に行なっている椎茸栽培作業を、ダンスや生演奏を入れた演出で作品にし、計15回の練習を重ねた。11月3日に園内テラスで発表。各々の個性を活かした配役で演じられる園生の暮らしを、壮大な山を背景に、保護者の皆さんはじめ、町内外約100人のお客様に観ていただいた。アフタートークも行い園長や会長の感想や、お客様の質疑応答など温かい空気に包まれた1時間半になった。鑑賞した町長がブログに感想を執筆したほか、西多摩新聞の一面に大きく取り上げられ、地元での知名度を上げることもできた。 12月にはオンラインシンポジウムと呼応する形で、この報告会を行い、記録映像のアーカイブ配信と共に全国に広く紹介した。観覧した町内の人が今年度の事業に参加申込するなど、少しずつ繋がりがうまれている。

オンラインシンポジウム

学びの場を増やし、環境を改善するためのネットワークを拡げるために、オンラインによるシンポジウムを8月・12月に実施しました。タイトルを『障がいのある人たちとつくる演劇の可能性』とし、8月は永山智行、佐藤拓道、黒田百合、12月は田畑真希、小松原修の5氏をゲストに、それぞれの活動をレクチャーしていただき、その後にシンポジウムを行いました。視聴参加者は72名、55名でした。質問やアンケートが多く届き、お互いの学びの場が強く求められていると感じました。この2回のシンポジウムはアーカイブ配信を行なっております。

F. フェニックスプロジェクト

『フェニックス・プロジェクト』は、東日本大震災の被災地に生きる舞台芸術家を支援する事業として立ち上

がってから10年、さまざまなイベント・公演・WSなどを重ねてきました。今回は3期に分けて実施しました。

 第1期は宮城特集として宮城県産作品上演し、2期は福島特集として福島県産演劇の変遷と考察及び被災地の写真展、そして震災をテーマとした東京産演劇の上演をしました。最後の3期はこれからを担うであろう若手演劇人たちがこの10年で感じたことをテーマに創作した短編作品の上演をしました。その経過を通し、本プロジェクトは私たちを取り巻く状況の中で「伝える」から「共に考える」そしてこれからをどうすべきかという「未来への考察」の場を出現させることに成功したのではないかと考えます。その後このプロジェクトをきっかけに、日本演出者協会東北ブロック構想が1歩前に進んだのも成果です。 また、今回上演された作品群、映像、写真、トークなどにより福島と宮城の抱える問題から世界の問題を共に考える良い機会となったこと、面積だけはモンゴル平原並みに広い東北(勝手なイメージです)で多くの出会いが実現できたこと、そして表現芸術のさらなる可能性を共に確認できたことなども大きな収穫でした。次回もさらに面白い企画で、さらに多くの人たちでフェニックスプロジェクトを立ち上げ続けたいと思います。

G. 広報部

2021年度の広報部活動について報告をさせていただきます。

広報部としましては、協会誌『D』のWeb化に向けて協議を重ねております。コロナ禍の影響等もあり、広報部員の活動にも波が生まれておりますが、新しいコンテンツの記事作成などWeb化スタートの準備を着々と勧めております。

本年中には何かしらの形でご披露できるかと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

―― 事業内容 ――

  • 広報部定例会議の開催       
  • 協会HPに掲載される各事業活動報告
  • 『D』Web化に向けての協議
  • 『D』Web版に掲載予定記事の作成

H. 教育出版部

初期の主要事業である“演劇教科書“の作りのほか、テーマである演劇の「啓蒙と普及」をテーマに活動の幅を広げています。

1. 教科書分科会は、6人の編集メンバーを中心に進めてきた演劇入門書「はじめての演劇」の編集作業が、

初版の発行に向けいよいよ佳境に入っており、2022年9月15日にPDF版を公開する予定です。

同書は、「概要編」・「知識編」・「実用編」の3部構成による全36項目120頁の内容となっており、これから演劇を始める中高生やアマチュア演劇の指導者を念頭に、親しみやすさ、分かりやすさに留意し、以下の23人の現役の演劇関係者に執筆をお願いいしました。 

(五十音順・敬称略)

鵜山仁、浦島啓、笠浦静花、川口典成、黒澤世莉、鴻上尚史、佐川大輔、佐藤こうじ、篠﨑光正、篠本賢一、田島佑規、谷澤拓巳、谷藤太、多和田真太良、中村ひろみ、中山佐代、成井豊、

乘峯雅寛、三輪えり花、守輪咲良、山崎哲史、山下和美、横尾圭亮、吉本有輝子

この間、随時原稿の校正や用語や表記など細部の調整を繰り返し、執筆者の意見交換会の開催や、協会の理事の皆さんへの経過報告を行うなど丁寧に進めました。

今後は、公開後の拡散と、書籍での出版に向けて、協力いただける出版社探しや予算確保なども課題にしていきます。

2. 包括的演劇教育分科会

 演劇の普及事業として、演劇教育についての実践と、行政への働きかけを考える政策提言勉強会を開催しています。

公教育にける演劇教育の実践の試みとして、武蔵野大学中高にて横尾圭亮講師による授業の実施。以後、これに続くべく公教育の現場への演劇・応用演劇の講師派遣について、人材育成や現状の事例や助成金等の情報収集などを進めているところです。

また、「政策提言勉強会」をこれまでほぼ毎月の計6度、リモートにて開催し、会員による提言の提案や意見の共有を行っています。

3. ハラスメント研究会

一方、昨今さまざまな問題が指摘されている「ハラスメント」の問題について、演劇業界として積極的に対処するために、「ハラスメント防止ガイドライン」を提案すべく、その原案を検討する分科会の活動も始めています。

これまで、演劇創作の現場、学校、専門教育の場、その他の事例について情報交換をしており、今後は継続的に他部会とも連携を取りながら研究会を開催していく予定です。

4. EPAD 緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業 その後

2021年3月より公開している、Eラーニング動画『舞台芸術スタッフの仕事』は、総再生回数36000超えており、今後も拡散のための宣伝告知などを継続していきます。 なお、これを公開している日本演出者協会・教育出版部のYOUTUBEチャンネルは、登録者が既に1100人を超え、YOUTUBEによる収益化の条件の一つをクリアしています。

I. 日韓演劇交流

日韓演劇交流センターは、新体制へと移り変わる。

日本の演劇統括7団体は委員を更新。

会長にシライケイタ(日本演出者協会)副会長に太田昭(日本新劇製作者協会)と洪明花(翻訳・俳優)。

事務局長に鈴木アツト(日本劇作家協会)事務局次長に柏木俊彦(日本演出者協会)が着任。 日韓演劇交流センターの「韓国現代戯曲ドラマリーディング」も10回目・20年の取り組みを終えて、新たな交流へと発展していくこととなる。これまでの戯曲集とドラマリーディングという形での交流を継続しながらも、新たなステップとして「韓国現代戯曲ドラマリーディング  ネクストステップVol.1(仮)」と題した企画をひきつづき実施。これまでの演出家・俳優の公募に加え、翻訳者も公募。これにより、文学界からも才能を発掘し育成していく。これまでの20年間の演劇交流のノウハウを使い、次世代の演劇人の育成と、韓国との演劇交流も進化させていく。

J. 観劇案内

2021年1月よりホームページ内に「協会員公演情報」のページを開設し、協会員の関わる公演、および、協会員向け招待・優待をいただいた公演の案内を随時行いました。
公演情報は、ホームページの「公演情報登録フォーム」に各自で入力していただくか、観劇案内担当者が働きかけかけることで、収集しました。
開設した当初に比べるとやや減少している印象です。会員のみなさまの貴重なお互いの仕事を知るコーナーですので、会員の皆さんからの情報提供を心よりお待ちしています。
協会員の関わる公演については、招待・優待をホームページへの掲載条件とはしていません。公演の意義、意気込みなどのコメントも併せてお願いします。
招待のある公演の情報は、DM発送時に印刷して封入、配布しましたが、協会事業のチラシ発行に合わせての発送になるため不定期となり、コロナ禍で発送後に中止となる公演も少なくありませんでした。
急な情報の変更への対応や、印刷や封入作業などの経費や手間を考えると、今後は印刷物の配布をやめて、ホームページのみを活用していきたいと考えています。

J.  新入会員

協会員による交流や、オンラインによる事業での出会いによって、22名の方が入会されました。推薦者2名を条件としていますが、推薦される方には推薦文をお願いしました。コロナ禍で公演やワークショップが困難になっていますが、協力体制を作るために入会される方が増えていらっしゃるように思います。 協会が現在の目標としている『社会的役割』を明確にし、そのことを多くの人に知ってもらうためには、演出に関わる者が、演劇についての認識や言葉を共有する必要があると思うのですが、その為にも会員を全国的に増やすことができればと考えています。

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