特別対談:
ファン・ユー×小川絵梨子
「これからは団体戦で交流を」

インタビュー

 この度、協会誌「D」WEB版への移行に向けて、協会誌の目玉となっている対談を、オンラインツールの特色を生かしながら、初となる海外演出家やプロデューサーと日本の演出家の対談を行いました。
 日本と台湾の演劇事情の違いや文化の違いを紹介しながら、これからの時代の演劇を相互に考えるという内容となっております。
 会員の皆様は勿論の事、演劇関係者の方々への貴重な情報提供になると共に、この対談が広く多くの方々の目に届くことによって、演劇普及の一助になる事を目標としております。
 今後、日本演出者協会が目指す新たなアジアネットワーク構築のきっかけとなることにも期待を寄せております。是非御一読頂ければと思います。

【運営スタッフ】
進行:桒原秀一(広報部)
進行補佐:五戸真理枝(広報部)、柏木俊彦(国際部、副事務局長)
アドバイザー:和田喜夫(事務局長)

台湾のアート業界は育児をしながら仕事がしやすい
女性演出家の日本作品はまだ台湾で上演されていない

台湾の演劇事情について分からないことが多いので、今日はいろいろお聞きできたらと思います。よろしくお願いします。

小川 あら! 赤ちゃんの声がしますね。おいくつですか?

ファン 6ヵ月です。

小川 わぁいいですね。日本の演劇業界の女性は演出家も含めて、結婚している方や子育てしながらやっている方があまりいないんですよ。それはちょっと問題だなと思っています。

ファン 台湾では逆に、アートの世界は育児をしながら仕事をしている女性をサポートしている環境があります。

小川 それは国がサポートしているんですか?

ファン 国ではなく、同僚の理解ですね。よくアーティストも子連れで稽古場に来ていたり、そういうことが多いですね。アーティスト、アートマネジメントのマネージャーたちの多くが妊娠して出産して育児という年齢層になりました。この世界は女性が多いので、なんとなくそういう形になったという気がしますね。私も今は、ワーキングフロムホームという形で育児をしながら仕事をさせていただいてます。

小川 素晴らしいなぁ。

ファン アート業界はスケジュール的に柔軟性がありますので、一般よりも育児しながら仕事できる環境ではないかなと思います。

小川 男性も育児休暇を取ったりすることは、アート業界では普通にありますか?

ファン ありますよ。最近はよく男性演出家も育休を取りますし、子連れでスタッフと一緒にミーティングすることも多いですね。

小川 素敵ですね。なかなか日本では見たことはないかな。

ファン ジェンダー平等という視点から、台湾は先進国ではないかなと思います。

小川 ほんとそうですね。それは政府というよりは国民自体の意識がそう向かっている感じなんですか。

ファン もちろん個人差もありますが、全体的にはそうですね。特にアート業界は女性が多いので、女性の生理や心理の変化などをサポートする、または理解できる環境かと思います。

小川 そうなんですか。すごい。アート業界に勤めている男女比は半々ぐらいですか?

ファン 半々ではなく多分7対3で7が女性かな。トップは男性が多いですけれども。でも台北の国立劇場の芸術監督はこの10年ぐらいずっと女性です。日本の劇団が台湾にいらっしゃったときには、国立劇場のスタッフは全員女性、舞台監督も女性が多いので、とてもびっくりしていました。

小川 ホントに!? それは最近増えたと言うわけではなく?

ファン アート業界の給料は比較的低いので、やっぱり男性にとってはやりづらい仕事ではないかなぁと思います。ですからずいぶん前から女性が多いです。

小川 衝撃ですね。自分たちのことですから、お互いサポートにも気も回りますよね。演出家や劇作家の男女比はどれぐらいですか?

ファン 演出家は男性の方が圧倒的に多いです。作家も男性が多いです。マネージャーやスタッフは女性が多く、プログラマーは90%が女性。照明デザイナーは昔は男性が多かったですが、若い世代は多分半々くらいかな。

小川 そっか。でも日本の劇場も蓋を開けてみると、実は制作スタッフの方やプロデューサーの方に女性がたくさんいてくださいますね。ただ舞台監督はやはり男性が多いイメージがあります。

日本のアート業界では女性の演出家や劇作家、俳優も、子育てに向け30代の女性の絶対数が少なくなっています。これが均等な社会になっていかない理由なのかなという気もするんですが、台湾の方から見てそれを変えていくために具体的なアドバイスはありませんか?

ファン う~ん…。でも子育てについて、アート業界だけではなく日本社会全体的に、すみません、不平等なイメージが台湾でも強いです。

一同 (笑)

ファン 例えば国会議員の男女の比率とか政府のトップの官僚に女性が少ないというニュースもよく見られます。ですからジェンダー平等というテーマでは、ちょっと失礼な言い方ですけれども、日本は後進国ではないかと……。台湾ではそういうイメージが強いですよ。しかも台湾はアジアで最初に同性婚を認めた国ですので。

小川 そうなんですよね。国会もそうですし、マスコミでも何か批判の対象になると必ず女性という枠組みから外れなかったり余計な批判がついたり……。一体いつまでやってるんだろうと思うんですよね。私が新国立劇場に入ってから、興味を持った演出家はたまたま女性が多くて、女性の演出家で女性の話をやるという企画をやろうかどうか迷った時期がありました。と言うのは、私が日本に帰国して演出するようになってから結構「女性演出家」と書かれることが多くて、最初はキョトンとしたんです。そういう括りは嫌だなぁと思ったから、女性演出家で女性の話となると安易に思われるのではないかと……。でもMe Too運動があったりして、女性だけではなく社会的マイノリティーが声を上げていくことがとても大事だなとやっと腑に落ちてきて、ちょっと考えが変わってきました。台湾では女性の物語が舞台上で語られたりするんでしょうか。

ファン 90年代の台湾では、わざと女性演出家や女性振付家の作品を扱うことが多かったのですが、21世紀に入ってからは、良い演出家なら性別問わずにやりましょうという認識が高くなりました。それ以来、ほとんど女性とか男性という話はなくなって、作品自体が評価されるようになりました。ですからこの20年は職業の前に女性という言葉を使うことがほぼないですね。

小川 素晴らしいと思います。そこをゴールとして目指していかなきゃと思います。歴史的に積み重ねてきたことが大事なんですね。

ファン 良い演出、良い作品には性別がないということですね。昨日、この対談のために過去どのような日本作品が台湾で上演されたか調べたんですが、女性演出家の作品は一つもなかったです。ですから逆に、日本の女性演出家の作品をテーマにしてスペシャル・プロジェクトをやりましょうという気持ちも出てきました。

一同 (拍手)

小川 嬉しい。台湾が90年代にやっていたことを私たちが意識してやっていかないと変わっていかないのかなと思いました。私たちも台湾のそういう進んでいるところに刺激を受けながら、一緒にできたら嬉しいなと思います。

ファン ぜひ!

小川 ぜひぜひ!

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