若手演出家コンクール2020
優秀賞受賞者インタビュー〈広報部〉

今井尋也

今井尋也(シルクロード能楽会)『シルクロード能楽会「道成寺」疫病譚』

――今回の応募のきっかけを教えてください。

今 井
まったくコンクールとかコンテストとかとは無縁でずっと作品を作ってきたんです。やっぱりコロナで自分たちの舞台の活動が完全にできなくなったんですよね。それで今できることをやろうということで、いままでやったことのないコンクールとかコンテストの世界に一歩踏み出してみようという感じです。コロナをきっかけに自分たちの作品が今この時代にどういう風にお客さんに受け取られるのかっていうのを確かめてみたく、普段とは違う土俵でまあちょっと舞台やりたいなということで応募しました。

――そうしたら作品の内容もコロナと関連が高いのでは?

今 井
そうですね。『「道成寺」疫病譚』というタイトルにあるように、疫病ということで、まさに今の状況に置き換えられると思います。この物語自体が日本の中世を背景にしていて、その時代にも実はたくさん疫病が都などで何回も流行しているんですよ。その度に、例えば人口が3分の1になっちゃったりして、天皇が死んじゃったりとか、そういうことがバンバン起きていたわけなんですよね。それでもその時代を乗り越えて人々が生き続けたということで今僕たちは生きているということです。現代も疫病が流行っている時代じゃないですか。だからこの時代に自分たちがどんな表現が出来るのかなっていうのを探してみたかったというのは大きいですね。

――劇団名から能をやっているのかと思ったら、意外と能もやっているけれども民族音楽的な要素もあったり、狂言師の川野さんが出演していたり、いろいろなものがミックスしていると思いました。表現へどのような拘りがありますか?

今 井
僕がずっと能をやってきて、能が大好きで、能舞台の魅力というものを現代に伝えたいというのが大きくひとつあるんですよ。それ以外に、能がそもそも出来た起源というのが、観阿弥とか世阿弥とかが能を作った時で、さっきの中世なんですけど、東の果てのアジアの国にシルクロードを伝って、いろんな国の文化が流れ込んできて、それらがミックスされて出来たのがハイブリッドカルチャーという能なんですよ。それが結局何百年もするうちに伝統芸能で固定化していったんですけど、それって今やったらどうなるのかなって、観阿弥や世阿弥がその時作ったようにいろんなミックスをハイブリッドして新しい能を作ろうとしたら一体どうなるのかって。幸い、今日本には、もうアジア諸国、それこそシルクロードの先のアラブ諸国、もちろんヨーロッパも含めて、そういうところの文化って簡単に触れられるじゃないですか。だから、日本にいるエキスパートを集めて、日本にいながらそういう文化をミックスして作品を作ったら、それこそ「能」なんじゃないかなと思い、「能」という文字を劇団名に入れて活動している訳です。

――本来の「能」に近いわけですね?

今 井
はい、より近いものですね。

――ご本人も出演されている訳ですが、毎回ご出演されているのですか?

今 井
出てますね。やっぱり能の技術を持った人間がいることで、表現が変わってくるんですよね。なので、僕以外の人は一切能と関わりがない人たちなんですよ。僕が中心になって能の技術とか能の音楽とか能の台詞回しだとか、能の演出ですよね、そういうものを自分で体現して、そこに持ち込んでいくというスタイルです。能って演出家いないんですよ。で、昔の日本の芸能って、シテ方、つまり主役の人が演出を兼ねていたし、もっと言っちゃうと、全員が演出家なんですよね。それが日本の芸能のスタイルなので、そういう意味で僕が演出家として外からただ見ているというだけではなくて、やっぱり一緒に舞台上に乗っているということに意味があるんですよね。

――今後の目標は?

今 井
やっぱりコロナを乗り越えて、新しい能のスタイルを確立して、これをやはり世界中に表現して普及していきたいというのが一番大きい目標ですね。そのために今回のコンクールで色んな賞をもらって、それをバネにステップアップ出来たらいいなと思ってます。

聞き手 野月敦 (日本演出者協会 / 広報部)

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