若手演出家コンクール2024 優秀賞受賞者インタビュー〈広報部〉

写真中央・平田氏

平田純哉不条理コントユニットMELT) 『 赤 砂

―― まずは本番を終えての感想を教えてください。

平田
「怒涛のように過ぎ去った」というのが正直な感想です。そもそも本番に間に合うのか不安や懸念が多々ありましたが、どうにか無理を成立させるため、各セクションが工夫していただいて何とか上演を完遂できてよかったです。

――終演後の舞台挨拶で今回の6名が創立メンバーって仰ってました。

平田
今回の6名は旗揚げ公演から全公演に関わっているので創立メンバーですね。

―― コンクールに応募した動機を教えてください。

平田
僕らは大学の演劇サークルなど母体やバックボーンがなく旗揚げした団体なので、とにかく演劇界と接点を持つことができたらという思いがあって、旗揚げ公演の頃から応募は続けていました。

―― 今回の作品『赤砂』に込めた想いを教えてください。

平田
まず、2次審査に進むという知らせをいただいた時点で、「最終審査を見据えた作品づくりを早急に進めなければ時間が足りない!?」と思いました。というのも、制作期間中作家がずっと多忙で執筆の時間を十分に確保できなかったからです。

土壇場の創作で、劇場らしい劇場の予約は難しく、美術などを作り込む資金も時間もないなか、2次審査でベストな上演空間を作るためにspace EDGEを見つけたことが決め手となりました。そしてこの空間が最も力を発揮するシチュエーションとして「地球から遠く離れた場所、火星の話をやりたい」と思ったのが最初のきっかけです。

また作家の意図として、「コンタミネーション(*1)」というテーマが主軸として語られるSF作品という点に企画の根幹がありました。いわゆる環境汚染を題材にし、それをサスペンスとして描くことが面白いのではないかと考えたのです。ただ、その中心アイテムは“うんち”だという……。それを真面目に語りつつ、一方で火星移住や宇宙開発といった壮大なテーマを対比的に描くことで、全てが切実な会話なのになぜかギャップが生まれてしまう、その抗えない重力のようなものに面白さがあると感じました。 そうした題材なので、利権をめぐる人間関係や、建前と本音が食い違う状況を、あくまでオトナとしてにこやかに社交的に、でも腹の底では憎悪や怒りが渦巻く、緊張感のある空間を目指して演出しました。

コンタミネーション(*1):本来混入するはずのない異物や不純物が、意図せず混入してしまうこと。食品、医薬品、実験などの分野で使われる言葉

―― 普段はどういう作品をつくってるんですか?

平田
もともと、モンティ・パイソンやラジカル・ガジベリビンバ・システムに憧れて、「とにかくコントがやりたい!」という気持ちからこの団体を始めました。

ところがある時、作家から1本のコントに収まりきらないアイディアがどんどん出てくるようになって、それをきっかけに演劇作品にも取り組むようになりました。最近は、その“コント”と“演劇”の境界について考えることも多いです。

「不条理コントユニット」という、ちょっと大きすぎる肩書に、自分たち自身が少しずつ背き始めているのが、最近の悩みでもあります(笑)。

会場選びも、上演したい作品のあらすじを先行して選ぶことが多いです。

オムニバス形式で複数本のコントをやっていた頃は、場所の設定が場面ごとに変わるので、抽象的な舞台が似合う場所に。今回の作品も、舞台が“火星”であることを踏まえて、天井の高さや奥行きといった空間的な要素から会場を選びました。
お客様が会場に足を踏み入れた瞬間に「何かが始まりそうだ」と感じてもらえるような、そんな“場所の力”を借りる演出をいつも意識しています。

―― 今回、創作する上で難しかったこと、チャレンジしたことはありますか?

平田
まず、「劇」小劇場という空間でどうこの作品を立ち上げるか――それが最大の課題でした。

もともとこの作品はSpace EDGEという劇場に合わせて書かれたものだったので、別の空間で上演するにあたって、印象が陳腐にならないよう工夫することが一番大変でした。

正直、今回の作品でなければ、あのような“変な”舞台の組み方(*2)はしなかったかもしれません。でも今の自分たちにできるベストを尽くした結果だと思っています。

また、演出面では、登場人物の立場――たとえば科学者と実業家といった職業の違いが、振る舞いや他者との距離感、コミュニケーションにおける優先順位や癖にどう表れるか、という点を俳優たちに繰り返し伝えました。
ひとりの人間であっても、相手や状況によって見せる顔は変わる。その“変化”のリアリティを舞台上に立ち上げることを目指しました。

“変な”舞台の組み方(*2):真ん中に細長いアクティングエリアを設けた対面客席の変形舞台

―― 最後に。今後の展望を教えてください。

平田
大きな劇場でやりたいです!
いつかシアターコクーンやパルコ劇場で雨を降らせるのが夢なので。(笑)

また、メンバーそれぞれがクリエイターとして独自のスキルを持っているので、演劇という枠を超えて、他ジャンルとの対流や交流が生まれるような活動もしていきたいと思っています。演劇が持つ「総合性」があらゆる文化を偶然に出会わせ、交わる“待ち合わせ場所”のような空間になったら、本当に幸せです。
でも何よりも一番の目標は、今の仲間たちと、これから何十年経っても、お互いをリスペクトしながら創作を続けていくこと。それが達成できたなら──もしかすると、それこそが一番の奇跡かもしれませんよね。

聞き手 日本演出者協会 広報部 中村ノブアキ

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