若手演出家コンクール2022 優秀賞受賞者インタビュー〈広報部〉 村田青葉

村田青葉(演劇ユニットせのび)『アーバン』

―― 今の率直な気持ちをお聞かせください

村田
夜、自分の作品が下北沢で上演されると思ってグッとこみ上げてきたんですけど、今日劇場に入ったら、オペレーションをやらなくちゃならないですし、もうバタバタで。でも、お客様の反応があるのを見て、安心と充実感というか、自分らの作品を届けられたんだって思いました。

―― 創作のきっかけはなんでしょうか?

村田
個人個人の視界ってとても限定されているなと思ったんです。隣の人が考えている事も分かんないし、目の前にいる人が何を見ているのかも、ちゃんと分かっていないっていう状況があるなぁと思った時に、相手側の事を考えていければ、豊かな想像力に繋がっていくだろうというのが自分の創作の中に流れています。その中で、今回の作品は「あっ下北だ!東京だ!」となった時に、「まず、とにかく人が多い」もし、岩手で作ったら結構じっくりと通り過ぎていく人を見て、「何を考えているのかなぁ?」とか思えるんですけど、東京だとあまりにも瞬間瞬間に人がすれ違うなって思って。それなら、もっとスクランブルに色々な事が起こる方が、この場所で上演するのには合うなと思って、今回はこういう感じの創作になりました。

―― 境界線がテーマになっていたのでしょうか?

村田
線については、コロナ以前やコロナ以後。それから震災前と震災が風化しているとか言われている事。いつ震災が過去のことになっているのか?など、時間の線という事が一つ自分の中で思ってる事です。それと、他者っていうのも境界の線であるなと思ったりしました。

―― ゴム紐で出来た、三角形のインパクトが強く残りますが、三角形にした意図はなんでしょうか?

村田
本当は、線と線と線がクロスしても良いかなって思ったんですけど、それやると千切れすぎているかなぁとも思ったりして、エリアが分かれ過ぎているよりも、僕が線って言っている線は、線って自分が勝手に引いてるものだっていう解釈をしているので、区切りすぎちゃうと線がある事を認める事になるのかもしれないので、あくまでも境界はボヤかせて、三角形だけどこの先の線は点線で見えているようなイメージなんです。ただ、それが演出的に落とし込めているのかどうかは課題です。こういう風に、面白いなって思う事をまだまだ続けていきたいと思っています。

―― 演出をするにあたって大切にされている点はどの様なところでしょうか?

村田
無防備な体で舞台上に立って欲しいって話を役者には求めています。ただ、今日はちょっと緊張とかもあって、そりゃ緊張するよなーって思うのですが、お客様に「ウェーイ」って声をかけられちゃうくらい近づいていきたい。ただそれをするためにはもしかしたら今の作劇じゃいけないのかもしれないですけど。

―― 青葉さんと、作品との関係性というのはご自身ではどういう風に考えてらっしゃいますか?

―― 本作品『宿りして』で伝えたかったことは?

村田
劇作の話になっちゃうかもしれないんですけど、卒業式って聞いた時に、不良が涙を流したとか、好きだった人の第二ボタンをもらったみたいなありきたりなエピソードよりも、前日に出たカレーが残ったからカレーうどんになって、啜ったらはねてシミが制服に付いちゃって、擦ったけどちょっと黄色くなってるのを卒業式の最中に気にして隠していた。みたいな個人的な話の方が「あーそういえば俺も卒業式…とか、あれカレーうどんっていえばさぁ」みたいな広がりを持ちそうだと思って。作品と僕の事って言ったら、僕すぎるとか誰々すぎるってなるリスクは感じているんですけど、自分のエピソードだと思って書いていた事が「あれ?これ本当にあったっけ?」ってなったり(笑)「これ、誰のエピソードだっけ?」ってなっていく、そういう線がばやけていくのも境界なのかもしれないですけど。

―― 演劇の魅力を教えていただけますか?

村田
普通に学生演劇を楽しんで終わっていきそうな時に、たまたま東京でちょっと滞在出来る期間があって。東京のお芝居を色々と見たんです。その時に、本多劇場でノゾエ征爾さんの舞台がやっていて、当日券の値段が変わらなかったし、デカい劇場だし、荒川良々さんが出てるから良い芝居なんだろうなくらいのテンションで見に行ったら、あまりにも分からなくて(笑)失敗したかな?ぐらいに思っていたんですけど、帰りながら色々反芻していたら、こことここが繋がって、「あ!ってことは!」みたいな事に気づいた瞬間、感じた事のないゾクゾクが浮かび上がってきて、演劇の出来る事ってこれだ!と思ったんですよね。今回の作品も分かりづらいかもなぁと思ったりもしながらも、反芻したり。あと、電車のお話が結構多かったので、電車に乗ってる時にいつもならスマホをいじったり眠ったりする所の景色がちょっと広がるというか、向こうの人は何を見てるのかな?隣の人は何をしているんだろう?ってほんのちょっとだけ日常に侵食していく。そういう演劇の部分が生の演劇の面白さだなと思っています。

―― 今後の展望を教えていただけますか?

村田
「今回の公演は岩手でしかやってないのか、行くかーっ!」てなれる劇団。やっぱり、岩手にわざわざ芝居を見に来てくれるっていう最終目標を長期的なプランとして立てていまして。そうなっていく為には人口が多い所での認知度を上げないといけない。地方の演劇って面白いんだ、見に行く、体験しに行くっていう所まで繋げていくのが、僕らの使命って言っちゃうと大げさですけど。そういう劇団になりたいと思っています。

聞き手 日本演出者協会 広報部 桒原秀一

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