コンクール

若手演出家コンクール

若手演出家コンクール2021最優秀賞受賞記念公演
亀尾佳宏インタビュー〈広報部〉

亀尾佳宏
島根県雲南市にあるJR木次(きすき)駅前のチェリヴァホールを拠点に活動。
劇団一級河川・雲南市創作市民演劇・三刀屋(みとや) 高校演劇部・掛合(かけや)分校演劇同好会という4つの団体で、「誰もが演劇を楽しむことができる」 環境の創出を目指し芝居づくりをしている。
中国ブロック劇王2連覇。劇王Ⅺアジア大会3位。
神奈川かもめ短編演劇祭2位。
若手演出家コンクール2014優秀賞。
日本演出者協会 若手演出家コンクール2021年度最優秀賞受賞

『卒業式』
『走れ!走れ走れメロス』『葉桜と魔笛』『酒とお蕎麦と男と女』

キャスト 劇団一級河川×島根の高校生
2023年3月10日(金)〜12日(日)
@下北沢『劇』小劇場

去年コンクールで最優秀賞を取ってから一年経ちましたけれどもこの1 年間いかがでしたか?

-亀尾-
慌ただしい1年でした。最終審査会の翌月に掛合分校から松江工業高校へと転勤し、環境が変わりました。去年一緒にコンクールに来た掛合分校の子たちと別れ、新しく松江工業高校の生徒と出会いがありました。転勤後も掛合分校の曽田くんとはまたお芝居をつくりはじめ、松江工業の子たちともお芝居をつくり、三刀屋高校の子たちとも・・・。そういった意味で非常に慌ただしい1年でした。

今回3校の生徒が参加されていますね。今勤めている松江工業高校と、去年まで勤めていた掛合分校、そして三刀屋高校ですが、三刀屋高校の生徒たちはどういった経緯で演出をすることになったのですか?

-亀尾-
掛合分校の前に勤めていたのが三刀屋高校です。掛合分校は三刀屋高校の分校ですので掛合分校にいる時も両方の稽古を見ていました。転勤するごとに一緒にお芝居をつくる学校が増え、今年は3校見ることになりました。

色々な顔をお持ちですね。高校の国語の先生の顔があり、顧問の顔があり、演出家の顔があり、作家としての顔もあると思うのですが、それらをどう使い分けているのですか?

-亀尾-
使い分けているという意識はありません。平日の日中は教員の仕事をして、夜や休みの日に演劇の稽古をします。今日は掛合分校の稽古の日、今日は松江工業の稽古の日、今日は創作市民劇の稽古の日といった具合に。もちろん、本番の時期が重なる時期は大変ですが、まあなんとかやっています。

高校生を演出するとき意識することはありますか?

-亀尾-
高校生だからどう、ということは特にないです。高校生に限らず一般市民の方と芝居を作ることも多いのですが、その人の面白いものとか、その人が提示してきたものをどう広げていくのかとか、こっちが思ってもないようなプランが出てきた時に、これをどうしたら成立させられるかみたいなことを楽しみながらやることが多いです。

高校生たちからは思いもしないことがいっぱい出てくるのだろうと思います。

-亀尾-
そうですね。こっちが思い描いていたプランがありながら、全く違うことを役者が提示してきた時にどっちがいいのかなってその場で考えて僕のプランよりこっちの方が面白いなとか、これを入れることによって芝居が変わっていくなと考えることが面白いです。だから演出と言いながら役者やスタッフと一緒につくっているような感覚です。

再演にあたってどのように稽古をしてきましたか?

-亀尾-
稽古は実はほとんど出来ていなくて・・・。短い期間で4 つのお芝居を作らなければいけなかったので、どうしても長い稽古時間が取れず。短期集中でやりました。『走れ!走れ走れメロス』は 1 年やってなかったのですが、4 回ぐらいしか稽古時間とれなくて。ゲネも全然面白くならなくて、どうしようかと焦りました。そもそも彼らも楽しくなさそうだった。それでどうしよう?というのをまたみんなで考えて、最終的に辿り着いたのは、彼らが楽しいと思うものを作ったら正解じゃないか、というところです。どうやったら楽しくなるか考えようよって言って、ゲネが終わってからもう一度つくり直したという感じです。

今回の公演を『卒業式』と銘打っていますが、去年最優秀を取ったときからこの演目をしようと考えていましたか?

-亀尾- 
全くなかったですね。そもそも彼らともう芝居をできないだろうとも思っていました。転勤して離れることも決まっていましたから。だから今回の記念公演も、当初はメロスをやることも高校生と一緒にやることも考えていませんでした。遠方なので、少人数で行かざるを得ないだろうとも思っていましたし。ただ、迷った末にやっぱり生徒たちが今しかできないことをやりたい、今しか見られないこの子たちをいろんな人に見てほしいと思うようになりました。少人数でしっかりと稽古して質を高めていくよりも、できるだけたくさんの高校生たちを東京に連れて行って記念公演をやるほうが僕は魅力的だなと思ったので。コロナで思うように活動ができなかったことを3年間別々の場所で体験していた高校三年生が、最後に東京で、それも満席の会場で一緒に『卒業式』ができたら素敵だな、と。
 公演内容を決めたのはギリギリのタイミングでした。それで去年やった短編二本(『走れ!走れ走れメロス』『酒とお蕎麦と男と女』)に、もう一本(『葉桜と魔笛』)を加えて上演することにしました。

卒業する高校生の中には演劇の道を進もうとする生徒さんもいるようですが、自分の生徒が演劇の道に進むことをどう思いますか?

-亀尾-
嬉しさ半分、心配半分ですね。演劇の世界が厳しい世界だというのは分かっていますので。人生の大きな岐路で彼が演劇の道を選び、それが今後どうなっていくのか。期待はしています。ですが一方で、もしそれが彼にとって良い人生ならなかったとしたら申し訳ないなっていうような思いがあります。

今回、太宰作品をベースとした作品を2 本上演していますが、太宰作品へのこだわりがあれば教えてください。

-亀尾-
たまたま曽田くんがメロスやりたいって言ったことから『走れ!走れ走れメロス』の上演台本を書きました。『葉桜と魔笛』は以前教科書に載っているのを読んだ時に島根県が舞台だということが分かり、いつか芝居にしたいと思いました。本当は 3 本とも太宰でやるかとも思っていたのですが、むしろ島根つながりで短編を組もうということになりました。

島根県へどんなこだわりがありますか?

-亀尾-
自分が生活している場所ですのでこだわりというか愛着のようなものはあります。みんながみんな芝居をするために都会に行くわけではありませんから、地方で芝居をしている自分としては自分の住んでいる場所でいかにお芝居をつくるか、島根の人にお芝居の魅力を知ってもらうかというのは最大の関心事です。

最後に今後の展望を教えてください。

-亀尾-
今回出演した生徒はそれぞれ違う道に行きますので、もう一緒にできることはないかもしれません。でも、その次の世代の高校生や、やはり地元で出会う人たちとお芝居をつくって、できればそれを島根以外の地域の人にももっともっと観てもらえるようにしたいと思っています。今回の記念公演もたくさんの方に観に来ていただきましたが、離れた場所に住んでいる方々にこうやって少しずつ、島根でつくっている演劇に興味を持っていただきたいと思います。また、全国各地の演劇人とつながっていきたいですね。同じように地方で、地元に根差した作品づくりを続けている方とかこれから演劇を始めようとしている若い方とか。演劇にとってとても厳しい3年間でした。作品をつくり続ける、お客さんに足を運んでもらう、その日常を取り戻すためには各地の演劇人がつながっていくことが必要だと思っています。

聞き手  桒原秀一(日本演出者協会 / 広報部)


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