若手演出家コンクール2024 優秀賞受賞者インタビュー〈広報部〉

申大樹(深海洋燈) 『野ばら』

―― まずは本番を終えての感想を教えてください。


率直に疲れました。朝から仕込んで、仕込みが終わったらもうお客さんが入ってきて、そのまま本番に突入したって感じだったんで。

――正直、すごい量の仕込(舞台美術、仕掛け)で驚きました。


実はいろいろ作戦を練りました。仕込2時間っていうルールだとみんな素舞台が多いのかなって予想して、でもそれだと深海洋燈の良さが出せないし、どうせならやれるとこまでやってやろうって決めて臨みました。

―― コンクールに応募した動機を教えてください。


演出というものにちゃんと真摯に向き合いたくて、それで自分のスキルアップという意味が大きいです。もちろん賞レースなので全力で賞を取りにはいくんですが、それよりもいろんな演出家の方からアドバイスをもらいたいという目的が大きかったです。実は今までも何回か応募はしていて、以前にもらった1次審査での講評は今でもたまに読み返したりしてます。それらがすごく勉強になってるから。例えば昔は効果音を多用していたんですが、使わなくてもいい音、引き算の演出みたいなことを指摘していただいたりして、今はその引き算の演出を考えたりしますね。

―― 今回の作品『野ばら』に込めた想いを教えてください。


実は僕自身の生まれにも関連するんですが、いわゆる戦争や在日の物語の多くは差別されたりというような悲しい出来事が描かれたりすると思うんですが、祖父や祖母の話とは違うなって思うことがあって。だからというか小川未明さんの『野ばら』をいつかやりたいってずっと思っていたんです。なぜなら未明さんって、戦争で長男と長女を亡くされていて、それでも児童文学で戦争と教育にずっと向き合ってきた作家だと思っているんですが、そんな辛い体験をされた未明さんが『野ばら』で、国境の真ん中に将棋盤を置いて2人で将棋を指すっていうシーンを書かれていて、なんてすごい発想をするんだって衝撃を受けて、それで何とかこれを視覚的にも楽しめるように掘り下げていきたいってずっと思っていたんです。つまり民族間の対立みたいなことを愛と平和を軸に描きたいと思ったってことです。祖父や祖母の話を聞いて考えてきたことだから。

―― 今回、創作する上で難しかったこと、チャレンジしたことはありますか?


実は今回、5回ぐらい書き直しています。というのも初稿では、国境ってことで日本と朝鮮半島のことをイメージして書いたんですけど、なんか違う、繋がらないって思って、それで改めて未明さんの本を読んだりしたときに、これは日本人同士の話にしてもいいんじゃないかって気づいて、要は妄想の話だからと。そこにたどり着くまで3稿くらい書き直して、それが苦労したことですね。

―― ちなみにですが、脚本と演出、俳優、今回は美術もやってらっしゃいますが、どれが一番好きですか?


どれも好きです(笑)。
モノづくりっていうか、演劇が好きなんで。要はバチバチした現場が好きで、何ならそういう現場だったら照明でもいいです(笑)。

―― 最後に。今後の展望を教えてください。


演劇っていう媒体が今後縮小していく恐れっていうのはやっぱりあって、それはスマホを開けば面白いものが、下手したら無料で見れてしまったりする時代なんで、その中でお金を使ってわざわざ劇場に足を運んでもらう人たちに向けて生で提供するからこそ、どれだけ熱量を持ち続けるかっていうことをいつも考えてます。そしていつかはどこかにテントを3カ月くらい立てっぱなしにして、20~30代の熱いやつらを集めて、フェスティバルを開きたいと思ってます。そしたらもう一度、演劇で熱風を起こせるんじゃないかって勝手に妄想してるんです(笑)。 あと海外公演したいです。世界各国を回りたいですね。

聞き手 日本演出者協会 広報部 中村ノブアキ

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