言えないことが増えていく。

年々、言えないことが増えていく。それは何も、僕が特別な秘密を抱え込んでしまったとか、そういった意味ではない。ポリコレだのハラスメントだのという言葉がうるさいほど日常に入り込んできて久しいが、たとえば僕が自分の半生について語ろうとしても、誰ソレはそのエピソードを披露されることを望んでいるだろうか？　とか、それって聞かされた人が不愉快にならないかな？　とか、いろいろなことが脳裏をよぎってどんどん口が重くなってしまう。僕は勝手に、いわば自主規制的に、どんどん言えないことを増やしていってしまっているのかもしれない。

今回書く台本についても、そんな感じだ。執筆の動機だとか背景だとか、そんなことは当分、誰にも言えそうにない。なんとも息苦しい世の中だ、とも思うが、創作家としては素晴らしい環境なのだと思うことにした。あけすけに笑い話にできるような話は、所詮、その場の雑談として消費される程度の話に過ぎないわけで、誰にも言えないことの中にこそ面白みがあるような気がするからだ。

そんなわけで今回は、女と男と男の話。誰にも言えないようなごく個人的な体験を基点にしてフィクションを拵えていこうと思う。生活と追憶と、愛情と裏切りと、家族と恋人と、被害と加害と、そんなことたちの間にまたがるイメージの連鎖をひとつの劇にまとめたい。昨年作った三人芝居でやいのやいのと議論する劇はいったんやり尽くしてしまったような思いもあるので、今回は何より、情景を重視して作りたい。三人芝居の濃密なドラマの中で、ぼんやりと浮かび上がるイメージを形にして、どうにか、観客のみなさんとそれを共有できますよう、願っています。ぜひ、観に来てやってください。

作・演出・主宰　広田淳一